遥か昔に滅びた惑星(ほし)があった。
地球にはその断末魔の光も届かぬほど遠く遠く離れた場所でのこと。
その惑星の名は、『アルカディア』。
その名は皮肉にも、地球では『理想郷』と称される。
「何かが足りない」
高宮 由愛(たかみや ゆめ)はそう呟いた。
由愛は聖真理亜女子学園高校に通う高校二年生、十七歳。
ここの学園は今時珍しく完全寮制がとられており、外出にも許可が必要で、その時代錯誤さに、生徒たちも文句を言いつつ暮らしている。
聖真理亜の生徒たちの多くは、男子のいない「もの足りなさ」を感じているのだが、由愛が感じているのはそういうものではなかった。
これは今日に限ったことではない。どうも最近は何かがしっくりこないのだ。何をしていても、何か自分に欠けているような気がしてならない。それがなんだかわからないけれど――。
何事もなく時を過ごしている自分が、無性に嫌になるときがあった。
そしてさらに、最近由愛は誰かの視線を背中に感じるようになっていた。しかしいつも決まって振り向くと、誰の姿も見えないのだ。
由愛はあまり物事にこだわらない主義なのだが、そう何度も続くと、さすがに気持ちのいいものではない。
確かに由愛は昔から人ならざるものを見る機会が多かった。だから今回も、そういう類のものだと由愛は思っていたのだが――。
『彼』に出会ったのは、そんな頃。
街にジングルベルが鳴り響く時期だった。