1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト

【注意】
純粋に、本サイト版の内容に沿ったダイジェストとなっております。
『小説家になろう』版のものとは内容が違う部分もありますので、お間違えのないようにお願いします。


 夏休みも終わり、新学期。
   
  「今日、うちのクラスに転校生くるらしいって聞いた?」

 休みの終わりのけだるさを吹き飛ばす驚きのニュースが、岬のクラスに飛び込んできた。
   
   
 岬――栃野 岬(とちの みさき)は高校二年生。
 高校のこの時期に転校生が来ることは珍しい。しかもその転校生が美形の男子ということなのだから、クラスの女子の反応は相当なものだ。
   
 果たして、教室に現れた転校生は見るものを惹きつけずにはいられない容姿をしていた。
 背は高く―― 一八〇センチは優にあるだろうか?
 少し面長な顔に、どこか異国風を思わせる目鼻立ち。
 やや色素の薄い髪の毛は後ろの方が若干伸ばしてある。
 体つきは特に筋肉質というわけではないのだが、それでいてひよわそうな印象は与えない。

 こんなに整った人も世の中にはいたんだと、岬は感心した。
 その転校生の名は、蒼嗣 克也(そうし かつや)。
   
 だが、蒼嗣は壇上でぼそりと自分の名を言っただけであとは黙ったまま。
  
 たまたま一学期で退学した男子生徒の席が空いていたというだけの理由で、蒼嗣の席は岬の隣に決まった。かくして、一瞬にして岬はクラスの女子の羨望と嫉妬の視線を受けることとなってしまったのだった。
   
 その日の放課後、心ここにあらずといった様子の岬に、姐さんタイプの親友、大島圭美は『岬がついに恋をした』とからかう。焦って否定する岬だが、圭美は複雑な顔を見せる。圭美もまた蒼嗣のことが気になっていたからだ。
   
 その夜、岬は不思議な夢を見た。
 一面が白の世界で、若い男とも、初老の男ともとれる聞いたこともない声が岬に語りかけてきたのだ。その声は不思議な話を始めた。
   
   
  ******      ******
   
    
 遥か昔から、時の為政者たちに力を貸してきた二つの一族があった。
 ひとつは『奈津河』、そしていまひとつは『竜』という一族だ。
 どちらの一族も『神から授けられた力』を操ることができた。心にねがう事を現実にしたり、手を触れずに病や傷をを癒したり、またその逆に他人を呪う事も可能であった。その力が為政者たちの目にとまり、ある者は『奈津河』を、またある者は『竜』を取り込み政治を操った。
 奈津河一族と竜一族の力は互角であり、その権力をめぐってどちらが為政者により気に入られるかということで絶えず争っていた。だが、いくら争えども力の互角さゆえに決着はつかなかった。
   
 そして今も、奈津河と竜は争っている。昔のように表立って殺し合いなどしていないが、裏世界では今も密かにそのようなことが行われている。
 現在は奈津河も竜も共に権力を持っている一族だ。表の顔は善良な大会社。しかし裏では暗殺業も厭わない。しかも、お互いに『神から授けられた力』による殺人ゆえ、事件は表ざたにならないでいるのだ――と。
   
   
  ******      ******
   
   

 こんな平和な今の世に、こんなことがあるなんて信じられない、と思いながらも、どこか笑い飛ばせない自分に戸惑う岬。
 そんな岬に、声の主ははっきりと告げる。
   
 ―― お前の体には奈津河の一族の血が流れている ――
   
 「えぇぇっ!?」
 今まで客観的に見ていた世界が急に現実となって迫ってくる。
 声はそんな岬の様子にかまわず言葉を続けた。
   
  『お前の力はまだ目覚めていないが、どうしても、お前に頼みたいことがある』
   
 頭がこんがらがって冷静に答えられない。そう、コレは夢だ、夢なんだ、夢なら早く覚めて・・・・・・そう何度も願うが、なかなかこの世界は消えてくれない。
   
  『お前に・・・・・・竜一族を救ってほしい』
   
 何なの?よく意味が飲み込めない。
 「だって、奈津河一族と竜一族は敵対してるんでしょ?あたしは奈津河の子孫で――。なのに敵の竜一族を、救う?」

 『酷なことを言っているのは良く分かる。でも、それはお前にしかできないこと。他の誰にもできない』
   
 酷も何も、岬にはそんな感情がついてくるほど話の内容が理解できていない。
 いきなり「救ってくれ」と言われても、自分にできることなど考え付かない。
 今説明されたことだって一応聞いてはいるものの、実はよく分からないのだ。ちゃんと理解するには難解すぎる内容なのだ。
   
 「一体、どうすれば――」
 岬は呟く。
 岬の疑問に声の主は何かを告げたが、岬には良く聞き取れなかった。
   
 やがて、自分の部屋で目を覚ました岬は、全て夢だったのだと自分を納得させようとする。
 しかし、どうしてもあの声が言ったことが頭から離れなかった。
 妙に生々しく言葉の端はし、声のトーンまではっきりと今でも覚えているのだ。
 「奈津河、と、竜――」
 そうつぶやくと、何か心の奥の方がぎゅっとしめつけられるような不思議な感覚がするのだった。   
   
   
   ■■■   ■■■
   
  
 郊外にひっそりと建つ一軒の大きな和風の邸宅の門を、傷だらけの一人の男がたたいた。
 周りにはぽつぽつと家もあるが、都会の喧騒とはかけ離れた静かな環境。

 傷だらけの男は、屋敷の中にいた二人の人物に向かって泣きながら告げる。
   
  「一青(いっせい)が、やられました・・・・・・!俺は・・・・・・逃げるのが精一杯・・・・・・で・・・・・・」
   
 一青と呼ばれる男と、この傷だらけの男が一緒にいるところを敵に襲われ、一青という男の方が殺されたのだ。
   
 屋敷の中にいた人物の一人、岩永基樹(いわなが もとき)は唇を震わせる。
   
  「奈津河のやつらめ・・・・・・。あんな一族、滅びてしまえばいいのに!・・・・・・あの刀の力さえやつらが握っていなければ、とうに我らが滅ぼしていたものを!」
   
 その言葉には、同胞を失った悲しみと敵に対する憎しみが満ちていた。
   
  基樹は、そばにいたもう一人の人物である、竜一族の長に向かって口を開く。
   
  「――長・・・・・・どうか決断をしてください。本格的に動き出す決断を。長さえそうお決めになられたのでしたら、この岩永基樹をはじめ、全国に散らばる竜につながる者たちが立ち上がるでしょう。・・・・・・奈津河一族を滅ぼすために!」」

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