1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト

【注意】
純粋に、本サイト版の内容に沿ったダイジェストとなっております。
『小説家になろう』版のものとは内容が違う部分もありますので、お間違えのないようにお願いします。
 


 転校生の蒼嗣は、表立って自分をさらけ出す方ではないが、あっという間に多くの女子に好かれるようになった。
 新学期が始まって三週間が過ぎ――、最初の頃はクラスの女子に熱の入った目で見られ、それを快く思わない男子にはひがまれ、浮いた存在だった蒼嗣は、今では女子も一時の騒ぎようからは落ち着きを見せはじめ、それに伴って男子からの見方も変化して、一応は普通にクラスに溶け込んでいた。とはいえ、蒼嗣は特に親しくつきあう友人も作らず、どこか、他の人と一線を引いて付き合っているようだった。
    
 それなのに、岬と蒼嗣の関係だけは険悪になってしまっていた。
 というのもある時、蒼嗣に見とれていた岬に対し「人の顔を用も無いのにじろじろ見るな。不愉快だ」と蒼嗣が腹を立てたことに端を発する。岬もムカッときたものだから、つい言い返して喧嘩をして以来、蒼嗣とは会えば憎まれ口を叩くような仲になってしまっていた。
 岬としては、確かに不快に感じるほどじろじろと見てしまった自分の行為は申し訳なかったとは思うものの、あんなふうに強い口調で言われるほどのことだったのだろうか、、と思うのだ。明らかに人を突き放したような瞳が心に焼き付いて離れなかった。
   
 そんな中、岬たちの通う私立桜ヶ丘高校では十一月にある学園祭の準備が始まった。
   
 学園祭の実行委員を各クラスから二人選出するのだが、その役割の面倒さから、毎年なかなか決まらないのが普通だ。だが、今年は違った。
   
  「ハイッ」
 元気な声が教室に響いた。立候補したのは圭美だ。
   
 「私、立候補します。でも――条件があります!もう一人の実行委員は、蒼嗣くんにお願いしたいんです!」
   
 圭美の大胆な提案に、クラスは騒然となる。
 だが、断りきれない雰囲気に折れ、蒼嗣は実行委員を引き受ける。
   
 岬はといえば、その後くじ引きで『トラブル監視委員』という、学園祭でのトラブルを監視するという、実行委員とは別の意味で面倒くさい役割が当たってしまった。
 その第一回目の集まりで、ほんわか系のもう一人の親友である晶子の彼、高島 重人(たかしま しげと)の友人、利由 尚吾(りゆう しょうご)と出会う。
   
      
   ■■■   ■■■
   
   
 ある日、いつものようにアルバイト先のファミレスに行った岬は、蒼嗣がキッチンスタッフとして新しく入ってきたことに驚く。
 アルバイトを終え、たまたま帰りが同じ時間になった二人は、違った場所であったせいか、いつもの険悪な雰囲気はなしに話すことができた。
 『あたしのこと、嫌いなんでしょ?だからいつも冷たいんだよね』と言う岬の言葉に、蒼嗣は『嫌いじゃない、ただ、どう接したらいいのか分からないから苦手なだけ』と答える。そこから、お互いに今までのことを謝り合う。
 別れ際、大きく手を振る岬を見て、蒼嗣は少し、目を細めた。
 岬には、蒼嗣が笑ってくれたのだと、そう、思えた。
   
 その日から二人の関係は微妙に変化し、お互いに喧嘩になりそうになると一歩手前でどちらかが引くようになっていった。
   
 岬は、蒼嗣とバイト先が一緒だということを親友の圭美にも話さなかった。
 何となく言いそびれてしまったというのもある。そして、蒼嗣が、バイトのことをあまり他人に知られたくないらしいことが伝わってきたからというのも。
   
 しかし、一番の理由は違った。
   
 他の人が知らないはずの自分だけの蒼嗣の姿を独り占めしたいと思ってしまったのだ。
   
 もう岬には分かっていた。
 自分が、そんな想いを抱いてしまうほど蒼嗣を好きだということ――。
   
 圭美は委員会で蒼嗣と一緒で、自分の知らない蒼嗣を見ているのだろう。自分にはそこには立ち入れない。だからせめてバイトでのことだけは、自分だけの宝物にしたい――そう思ってしまった。
 好都合なことに蒼嗣はもともとあまり自分のことを話す方ではないので、他の人はおろか、委員会がらみでよく行動を共にする圭美にもバイトのことは言ってないようだったのだ。
 かくして岬は、それまで何でも言い合っていた圭美との間に初めて意識して秘密を作ることになってしまった。
    
   
   ■■■   ■■■
   
   
 岬も圭美もバスケ部に所属しているのだが、ある日の放課後、圭美は実行委員の集まりの後で、一緒に委員会に出ていた蒼嗣を部活の活動場所に連れてくる。
 成り行き上、部活が終わるまで待つことになってしまった蒼嗣は、岬と圭美を含むバスケ部女子数人に囲まれながら駅まで歩くこととなった。
   
 そこへ、急に見知らぬ一人の男がものすごいスピードで走ってきて、一番端にいた圭美の後ろから体当たりしてきた。
  「痛っ!!」
 圭美が顔をしかめる。
 男は走っていたために少し行き過ぎたが、圭美の声に反応して振り向き、
  「悪い!!」
 と謝った。男はスーツ姿だった。サラリーマンだろうか?
  「やだ......」
 その男の姿を見るなり、岬たちと一緒にいた女子のひとりが悲愴な声を上げた。
 その男のスーツの袖の上部が刃物で切られたように一部ざっくり切れており、そこから大きな切り傷のようなものが目に入ってきたからだ。
   
 その場にいた誰もが目を見張った。   
 そして次の瞬間、男の表情も少し動いた。
   
 ――その時。

 いきなりの轟音と閃光が岬たちを襲い、その瞬間、岬は地面に叩きつけられた。
 何が起こったのか、分からなかった。
 倒れた拍子にひじか何かを打ったらしく、腕がジンジン傷む。
 そのままとっさに目を開けると、目の前に蒼嗣の白いシャツと胸元があった。蒼嗣に体ごと覆いかぶさられてかばわれるような体勢になっていたからだ。
 蒼嗣は少し体勢をずらすと岬の顔を覗き込み、何かを口にしかけた。
   
 が。
   
  「痛いっ!!いたいー!!」
 一緒に歩いていたはずの友人たちの叫び声に、岬はがばっと起き上がった。蒼嗣も振り返る。
 そこにはまるで地獄絵図のような光景が広がっていた。
 泣き叫ぶ知人たち。体中のあちこちから血が流れ落ちている。
 そしてうずくまる圭美。やはり体中血だらけだ。
   
  「何だ!?どうしたんだ!?」
 爆音に気付いた近所の人たちもどやどやと集まってきた。
  「救急車!!誰か!!」
 慌てて駆け出す大人たちと、増える野次馬。
   

 騒ぎの中、岬はただ、震えていた。
 ――蒼嗣の、腕の中で。


 【続き(1章『陰謀と衝撃(3)』)を読む

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