実力者(1)

「はー、寒いー」
吐く息が白い。
岬は両手を胸の前ですり合わせながら、すっかり暗くなった辺りを見回した。

少し歩くと商店街があり、急にぱあっと明るくなる。
ツリーやらサンタクロースやらで飾られ、今、街はどこもかしこもひときわ光り輝いている。深い意味は考えなくても、もうすぐ訪れる異国の神様の生誕を祝う祭りの準備をしている。
恋人たちは寄り添い一年のうちで特にロマンチックな気分に酔いしれる。
街行く人も車もどこか忙しげだ。

あの悪夢の日から1ヶ月以上が過ぎた。
しかし心の傷が癒えることはなかった。
どんなに街が着飾っても、心の中までは完全には明るくはならない。

【信ジル者 ハ 救ワレル】

そんなことでは解決できないことが世の中にはごまんとあるのだ。
おりしも吹いてきた風にぶるりと身を震わせた岬の肩に、克也は黙ったままさりげなく自分の手を背後からそっと添える。二人とも制服の上からコートを着て、岬はマフラーまでしていたが、それだけでは耐え切れないぐらいの寒さが迫っていた。
長身の克也のそばでは背の小さい岬はすっぽりと隠れてしまう。克也のその温かさに、岬はホッとして"ありがと"と微笑んだ。
親友を失った重みに耐える自分に対し、何も言わずに気遣いを見せる克也の存在に随分岬は救われていた。異国の神様よりも克也の存在に。-----もちろん、彼とこうして幸せにいることは、一種の痛みを伴うものではあったけれども。


       ******     ******

「いつまでこの状態のままでいるつもりなんだ?」
小さなアパートの一室。利由尚吾は目の前で小説のページを繰る青年を見やった。
「・・・・・・何が?」
この青年の頭の回転具合から言って分からないわけではないだろうに、わざとそらとぼける態度が鼻につく。しかし、そんな苛立ちも抑えてつとめて冷静に利由は言葉を続けた。
「岬ちゃんのこと。」
「どうもこうも・・・・・・。先日伝えたとおりだ。」
先日、幹部の集う前で克也が告げた言葉。それは、克也を良く知る利由にとっては少々疑問も残る言葉だった。
「本気か?」
そう問う利由と顔を上げた克也の視線が交錯する。
「もちろん。」
克也の視線はまっすぐだ。しかし、その表情からは感情は読み取れない。いつものたちの悪いポーカーフェイスだ。
「長としてやるべきことはやるよ。それが---一族の長としての義務だと思っているから・・・・・・。」
そう言って克也は再び本に視線を戻した。
「ふぅん。」
利由は不満そうだ。
「俺は小さい頃からのお前を知ってる。お前の考えていることはたいてい分かっているつもりだ。でも、今まで色恋に無縁だったお前のこういう状態は初めてだからな・・・・・・予測しがたいところがあるよ。岩永氏だって半信半疑だ。お前が岬ちゃんに対してそこまで冷酷になれるのか、と。」
克也は答えない。
しばらく、沈黙だけが流れた。

しばらくの後、しびれをきらした利由の方がため息をつきつつ話題を変えた。
「岬ちゃんは・・・・・・、まだ何も知らないのか・・・・・・?」
「中條あたりから・・・・・・大まかのことは伝えられているようだ・・・・・・」

「------。それは・・・・・・、宝刀がらみのことも、なのか?」
利由はそれまでと違って声のトーンを下げた。
克也は少し考えるしぐさをしてからぽつりと答えた。
「----多分、それはない。」

克也は決して本から目を離そうとはしなかった。

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