異変(7)
「空気?」
岬は繰り返した。
「うん。前に岬も言っただろ?この家には水皇さんの力でシールドが張られているって」
「うん、それは分かる」
克也の言葉に岬は頷いた。
その岬の反応を待って、克也は軽く息を吸い、ちらりと利衛子も方をも見てから言葉を紡いだ。
「少し前から、ある場所のガードが少しずつ薄くなってる」
克也の言葉に、利衛子の表情が固まった。
けれど、岬にはそれが一体何を示すのか、にわかには分かりかねてたずねた。
「それってどういう......?」
克也はひとつまばたきして、そして岬を見つめる。
「水皇さんの力が――、弱まっている、可能性があるってこと」
「弱まる?そんなこと――」
『あるのか』と言いかけて、岬は思い出す。
鷹乃と対峙した時に涼真が一時的な結界を張って助けてくれたことがあったが、その時に
『これでも昔はもう少し強い結界が張れたのですけどね。』
と苦笑した涼真。
奈津河一族にしても竜一族にしても特殊な術力を持つ者のほとんどは、歳をとると『一部の者をのぞいて』その力を失っていくのだということの裏づけのような言葉だった。
一部の者をのぞいて、という言葉を聞いていたこともあり、しかも水皇の普段の堂々とした様子や、今も表向き一族を束ねているという立場への先入観から、岬は勝手に水皇もその『一部の者』であると勝手に思い込んでいたのだ。
『でも、それが違っていたとしたら――』
岬は、愕然とした。体の脇で思わず拳をぎゅっと握り締める。
利衛子も、
「あたし、そんなこと全然気づいてなかった......。こんな大事なこと――感じることもできないなんて、幹部失格だよ」
悔しそうに唸る。
「いや......。この違和感は俺ですら、本当に『違和感』としか感じられないほどのものなんだ。だから、さっきみたいに水皇さんの様子がおかしいとはっきり分かるようなことがなければ、ここまではっきりとした確証は得られなかったかもしれない」
「一時的なもの、じゃないのかな?水皇さん、最近色々あって疲れてるから――」
なんとか良い方向に考えられないものかと紡いだ岬の言葉に、利衛子も少し顔を明るくする。
「そう、そうだよね!」
少々無理やり自分を納得させている感じではあったが。
「――だといいけど......。なんでかな、嫌な予感がするんだ......」
克也は難しい顔をしたまま、窓の外を見つめた。