定められし出逢い(10)

 「レスマドリアン様」
 ギリシア神殿風の、家の主(あるじ)によって"セミア宮"と名付けられた建物の中でキエラは、広間に作られた玉座に座りワイングラスを傾けるエドルの前にひざまずいた。
 この"セミア宮"はエドルが持つ豪邸のうちの一つであり、いわゆる郊外の金持ちばかりが住まう高級住宅郡にある。およそ日本には似つかわしくないその邸宅は、知らない人が見れば酔狂な金持ちが建てた家として映ることだろう。
 セミア宮とは、かつて「ARCADIA」という星の、全世界の中心的存在であった"ランドリア"という帝国で、レスマドリアンが本拠地として住んでいた宮であった。生まれ変わったレスマドリアン------すなわちエドルは、ARCADIAのセミア宮と同じような造りの建物を数年前にこの地に造った。エドルの父親は有名な実業家で母親も資産家の娘である。彼らは溺愛する息子のために、この豪邸を息子の希望通りに作り上げ、自由に使わせているのだった。
  
 キエラに名を呼ばれたエドルは玉座から立ち上がり、目の前の数段の階段を下りてキエラの元に歩み寄る。
   
   
 「ヘネミルキアがアリスタイルと接触し始めたようです。」
 キエラは英語でそう報告した。ここでの二人の会話は専ら英語である。それは二人の現世での母国が英語圏であることによるものだ。キエラの報告にエドルは少し動きを止め、何かを考えるそぶりを見せた。
「そうか・・・・・・。・・・・・・まぁ当たり前だろうな。従者が主人のもとに帰るのは当然のことだ。キエラ、こうしてキミが現世でも私のもとに再び現れてくれたように。」
そう言ってエドルはキエラを立ち上がらせ、自分の方に引き寄せる。やがてその指はキエラの背中をなぞり、エドルはキエラの首筋に口付けた。
「あ・・・・・・」
キエラの口から官能的な声が漏れる。
   
   
 「ほうっておけ。どうせヘネミルキアは天の力を持たなければ僕には勝てないのだから。」
そう言いながらもエドルはキエラの首筋から肩のラインをなぞるように唇を這わせ、慣れた手つきで豊かな胸を愛撫し続ける。
「レ、スマドリアン様・・・・・・」
喜びに胸を震わせながらキエラはエドルの背に手を回した。
   
   
 「宇宙(コスモ)の支配権は僕がもらう。ヘネミルキアなんかには絶対に渡せない・・・・・・」
エドルはうめくように、そう独白した。
   


歯車は再び回り始める。
その果てに何が待つのかは、未だ誰にも分からぬこと------。
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