「大公(ヘイレル)・・・・・・。」
青年にそう呼ばれた真は少々苦々しい表情になる。
「そんな称号はとうの昔に捨てた。思い出したくもないものを、呼ばれるたびにまざまざと思い出す忌々しい称号だ。」
「申し訳ございません。呼び慣れているものでつい・・・・・・」
そう言って青年は軽く頭を下げ、続けた。
「では、ヘネミルキア様。------アルカディアス様には早く"天の力"を還していただかなくてはなりません。そのためには早く記憶を取り戻してもらわなくては・・・・・・」
「分かっている。まぁ、そう焦るな」
余裕の姿勢を崩さない真に青年は少々語気を強めた。
「しかし・・・・・・、天の力がなければ貴方が宇宙(コスモ)の支配権を持つことは不可能です!万が一、レスマドリアンの手に渡りでもしたら・・・・・・」
そんな青年の様子を横目で見やりながら、真はジーパンのポケットから煙草の箱とライターを取り出す。
「心配するなアリスタイル。天の力はまだでも、地の力は息絶える寸前に還してもらっている。--------前世のようなみっともない死に方はしない」
そう言いながら真は箱の端を叩いて煙草を一本取り出し、なおも心配そうな従者の顔を見ながらそれに火をつける。
そんな主にアリスタイル、と呼ばれた青年はため息をつく。
「貴方ともあろうものが・・・・・・随分と生ぬるいやり方をなさっているのですね・・・・・・。『逆らうものは皆殺し。言い寄ってくる女すらも次々と亡き者にした。帝国にならびなきほど美しく冷徹な悪魔』とも称された貴方なのに・・・・・・」
その言葉を聞いた真は思わず口に含んでいた煙を勢い良く吹き出した。
「お前・・・・・・それは褒め言葉とは違うってば」
くっくっとおかしそうに腹を抱えて笑う真を見てアリスタイルはため息をつく。
「貴方も随分変わられましたね・・・・・・」
何ともいえない複雑な表情でそうつぶやく。そのつぶやきを聞き取って真は顔だけは笑った状態のまま、笑いを止めた。
「そ。人間、長い人生の中には色々考えることもあるってこと。性格が変わってきてもおかしくないよ」
そう言う真の表情と口調は完全に"現世の真"へと戻っていた。
「アリスタイル。お前は『辻村 馨』になってもあんまり性格変わってないな・・・・・・」
「私はこの性格が気に入っておりますので」
真の言葉を皮肉ととったアリスタイル------馨は冷ややかに答える。その態度が"アリスタイルらしい"と呆れたように笑い続ける真に、馨は二度目の大きなため息をついた。