定められし出逢い(3)

「転生?」
信じられずに由愛は聞き返した。手にしたティースプーンを握る指に思わず力がこもる。
ここは駅ビルの中にある喫茶店。
あの後、由愛は半ば強引にここに連れてこられたのであった。そして、彼は由愛にとんでもないことを話し始めたのだ。
「そう。転生。君はとある人物の転生した姿というワケ。」
相手はニコニコして答え、持っていた煙草に火をつける。

「...あたし、宗教系の話は本気にしない性質だから。勧誘しても無駄ですよ」
明らかに怪しいヤツだ、と疑いのまなざしを向ける由愛。しかしそんなことを全く気にしないかのように男は続ける。
「あ?。違う違う。宗教関係なし。...君は忘れちゃってるからしょうがないっちゃしょうがないんだけどもさ。これは本当。...だって、さっきの怖いオネエちゃん、見たでしょ?あれが何よりの証明。」
 確かに、さきほどの体験は常識で考えられる範疇を越えている。由愛も、実際に体験しておきながら、まるで映画のワンシーンを見ただけのような気さえする。
「----っ。」
自分が相手のペースに引き込まれているのが分かった由愛はそれを振り切るようにテーブルを平手で叩いた。回りの客がいっせいにこっちを見る。
「だいたい、あんた誰よ?名ぐらい名乗りなさいよね!」
息巻く由愛だが、男は悪びれた様子もない。
「あ、ごめん。言ったつもりになってた。--俺は加賀真。一応『かが まこと』っていうんだけど、シンって呼んで欲しいな。」
あまりの拍子抜けした態度に由愛は頭を抱えた。
「......あの。加賀、さん?」
"シン"云々のことはあえて無視して"加賀"のところを強調する。
「ダメダメ。シンって呼んでよ。」
「...いい加減にしてください。あまりわけ分からないこと言ってるとけーさつ呼びますよ。」
「それは困る。あのね由愛ちゃん。---信じられなくても無理がないことだけど、全て本当のことなんだよ」
「---転生だなんだって非現実的なことをいきなり言われても信じられるわけがないじゃないですか。---だいたいなんであたしの名前知ってるわけ?」
「---俺は、ずっと由愛ちゃんを見ていたからね。」
「---っ。---何で人のつけまわしたりするんですか!?」
「もちろん...由愛ちゃんのことが好きだから。」
由愛は脱力した。
こんな訳のわからないストーカーじみた男にはもうつきあっていられない。
「失礼しますっ!」
由愛は勢い良く椅子から立ち上がり、伝票をつかんだ。あとくされがないように紅茶の代金を支払うためだ。
レジのところでお金を払おうと財布を取り出すと、上からお札が降ってきた。
「女の子に払わせるようなかっこ悪いまねはできないんでね?」
男は満面の笑みを浮かべた。
『---やばい。』
由愛は、冷や汗が自分の背中を伝うのを感じた。



「どこまでついてくるんですかっ!いい加減にしてくださいっ!」
店を出てもついてくる男がいい加減怖くなり、その恐怖を振り切るように由愛は叫んだ。前を向いたままで足早にその場を離れようとする由愛の手を男がつかむ。
「離してくださいっ!」
腕を思いっきり振ってその男-----真---から逃れようとしたが、

「アルカディアス!」
----その声を聞いた途端、冷水に打たれたような感覚に襲われ、金縛りにあったように体が動かなくなってしまった。

そして。
眼前に広がるのは-----

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