---ここは、どこなの---?
由愛は思った。
---あぁ。
ここは、【あの場所】。
---ソウ ヨ ワタシ ハ ココ ニ イタ ワ-----
「侵入者だ!殺してしまえ!」
どすの利いた低い声。
目の前で起きていることが現実とは思えない。
-----ヤメテ ヤメテ----
声にならない声でずっと叫んでいた。
-----血。
眼前にあるのは多くの屍とそのモノから流れる血液。
そしてその中には------
「---い、やぁぁぁぁ-------!!!!」
それは心の叫び。
「死、なないでっ---!」
勝手にあふれてくる涙。
---ワタシニ ハ ナケル シカク モ ナイノニ---
「思い出したの...!私、思い出したわ...!だから、だからっ...!!!」
まるでこの体が自分のものではないように感覚がない。
手が震えて。
目の前にある、もうモノになりかけている体のもう焦点の定まらぬうつろな瞳がゆっくりと動いた。
---自分は目の前で手を組む。
力の発動。
"あなたに還すための"
今ならまだ間に合う。
合わせたその手のひらから放った光が、もう息も絶え絶えのかの人の体を覆い尽くす。
「あぁ...これで...」
微かな安堵感に浸ったのもつかの間、それはすぐに悲しい現実によって打ち消される。
目の前のかの人の、左胸に深く突き刺さる2本目の刃。
見開かれたままの瞳。
----息を、することができなかった。
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「ヘネミルキア......-----」
それは自然に口を付いて出た言葉だった。由愛の意識の奥底でたった今目覚めた者の。
そして由愛の腕は、真の背中へと回る。そしていとおしそうにその胸を引き寄せる----
プァン!
どこかでトラックが鳴らしたクラクションで、由愛は一気に現実に引き戻された。
「-----な、なにっ!?」
由愛ははじかれたようにその場を飛びのいた。
心臓が早鐘を打っていた。
しかし、もう、由愛には分かっていた。
今、見た自分は確かに在ったことを。
そして多分、目の前の男をかつての自分が愛しいと感じていたことも。