定められし出逢い(6)

由愛は混乱していた。
普通に考えれば、いきなり会ったその日にストーカーじみた怪しい男にいきなりキスを奪われたら気持ち悪い、と思うのが当たり前だ。実際、由愛はものすごく気分を害しているのだ。イライラする。
けれど、由愛には完全に突き放すことは出来なかった。
前世の記憶が邪魔するのだ。

確かに、------愛していた男。
狂うほどに。


2日たった今もその苛立ちは消えず、気晴らしにと街をふらついてみたが、何をしても気分は晴れることはなかった。
日がかげりコートを着てもしみる寒さに、いい加減帰ろうとしたときだった。

ふと、一人の金髪の外国人と目が合ってしまった。
何となくばつが悪くて目をそらした由愛だが、何故か気になって、ちらと目だけをそちらに向けたその時、由愛は心臓が止まりそうになった。
なんと、その外国人は由愛をめがけて一目散に向かってきたのである。

『きゃ?っ、私、英語超苦手なのに!!!』

慌ててそこから立ち去ろうとするが、人ごみに押されて思うように進めない。そんな状況だというのにどこをどう抜けてきたのか、その外国人はあっという間に由愛の目の前に来ていた。
青い---緑にも見えるその瞳。どこかのファッション誌に出てきそうなな整った顔立ちをしている。
由愛は現実逃避したくなり、もしや自分を見ていると思っているのは自意識過剰で、この外国人は他の人を見ているかもしれないとと思いキョロキョロあたりを見回す。確かに誰もが長身で美形のその外国人に、珍しそうに目を留めるが、後は何事もなかっように去っていくのだ。

「あ、あの、エート...?」
必死に何とか逃げる英語を頭の中で探してパニックになっている由愛を、その外国人はしばし目を細めて見つめてきた。とてもいとおしそうに。
そして。

「会いたかった...!!」
そう手をとられて由愛はあっけにとられた。
「へ?日本...語?」
訝しそうにつぶやく由愛に、外国人はにこりと笑いかけた
「日本語も得意だよ。必死に勉強したから。でも----もう君は、前世のことは本当に忘れてしまったんだね。」
あまりの混乱のしように、他の事は頭に入っていなかった由愛だが
"前世"
その言葉だけは妙に頭に響いた。

この人も自分の前世と関係があるのか?

できるかぎり思い出そうと試みてみるが、どうしても思い出せない。加賀 真のときとは違う。自分がこの者を好きだったのか嫌いだったのかというようなそんな次元ではなく、全く何の感慨も沸いてこないのだ。
この人は誰なのか。

「あなたは...だれ...?」
由愛は呆然と口を動かした。
それを聞いて外国人はしまった、というようにはにかんだような表情で自分の頭に手をやった。
「ゴメン。------これじゃ、ただのアブない人だよね。」
外国人の素直に慌てる仕草に、由愛の警戒心は少し薄らぐ。
「ボクの名前は"播磨 エドル"。父が日本人でね、それもあって日本が好きなんだ。今、留学に来てるところ。そして------」
そこで少し外国人は言葉を切った。少しだけ遠くを見つめる。
「前世の名前は"レスマドリアン"------キミの前世の------夫だよ。」

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