実力者(3)
「え・・・・・・っ、12月24日?」
その日の予定を聞かれて岬は一瞬どきりとした。聞いてきたのは晶子だ。岬も、特に何かきちんとした用事があるわけではなかったが、一応"彼氏持ち"の立場としてはすぐには『ヒマ』とは言いづらい。------とはいっても、克也とは今のところ何の約束もしていないが。
岬たちは去年、イブの夜に晶子の家を借りてクリスマスパーティー(お泊り会)をした。---というのも、晶子の両親は普段からラブラブで、毎年クリスマスイブとなると一泊旅行に出かけてしまうらしく一人では寂しいから、という理由だった。子供の頃は晶子も両親に付いていっていたらしいが、高島と付き合いだしてからは親と過ごすより恋人と一緒に過ごしたいと思ったらしい。それなら二人だけで過ごせばいいと思うのだが、二人っきりはさすがにまだヤバいということで、高島も交えて友人数人で夜通しバカ騒ぎをしたものだった。
晶子は去年の楽しさに味をしめたらしく、今年もそのパーティーをやろうというのだ。
「・・・・・・ねー、ダメかなぁ・・・・・・?」
わざと大きくお願いポーズをしてみせる晶子に岬は苦笑した。
「・・・・・・ほんとは先輩と二人で過ごしたいんじゃないのー?」
「平気平気!だってあたしたちまだ高校生だしっ。もしも・・・・・・ってことになったら・・・・・・ねぇ?」
焦った様子を見せる晶子に、そばで聞いていたもう一人の友人が口を挟んだ。
「巷ではそんな垣根を平気で乗り越えてる人もいるってのに、晶子ってば今時珍しいよね?」
「いいのッ」
顔を赤くしてふくれる晶子を岬は素直にかわいらしいと思う。
黙っている岬の様子を何か誤解したのか、晶子はいきなりポンと自分の手を叩いた。
「あっ、分かったっ。ごめんね、重要なこと忘れてて!」
「何?」
いきなりのことにびっくりした岬に晶子は、申し訳なさそうで且ついたずらっ子のような顔をした。
「もちろん蒼嗣くんも誘うからね♪」
「なっ・・・・・・」
岬が次の言葉を発するより早く『蒼嗣く?ん』と大きな声で、離れたところでクラスメートと話をしている克也のもとに駆け寄る晶子。
克也がどう答えるのか、岬はちょっとドキドキした。
昼休み中のためにざわついている教室では、ちょっと離れるとなかなか声は聞き取りづらい。けれど聞き耳を立てればなんとか聞こえてくる。
「え?、イブに井澤んちでクリスマスパーティーやんの?おもしろそー」
克也の横でしゃべっていた男子の一人が興味を示す。
「あんたは後!今あたしは先に蒼嗣くんに聞いてんの」
晶子のつれない言葉に、そのクラスメートはちぇっと舌打ちする。途端に晶子はすまなそうな表情になった。
「だって、蒼嗣くんが行くって言ってくれないと岬が来てくれないからパーティー自体お流れになっちゃうかもしれないんだもん。」
その言葉を聞くと克也はちらっと岬の方を見た。
いきなり視線が合うと岬もいまだにどぎまぎしてしまう。返した表情はなんともいえない表情になってしまっていたと自分で思う。
そんな岬の動揺に気付いているのかいないのか、克也は
「24日か・・・・・・」
と、少し考えるような仕草を見せた。
「だ、だいじょうぶっ。晶子!!克也が行かなくてもあたしは行ってあげるからっ」
考え込む克也の姿に、岬は何か用事があるのかと、慌ててつい大声を上げてしまう。
克也はそんな岬を横目で見ながらも、まだ考えこんだ仕草のままだ。
少しの後、克也が口を開いた。
「井澤、ちょっとその答え明日まで待ってくれる?」
「いいけど?------じゃぁ絶対明日までだからね?」
そう確認し、晶子は克也たちのそばから岬の方に戻ってきた。
「そういうことだから、岬も明日までこのことは保留ね?」
「う、うん・・・・・・」
うなずきながらも、岬は何となくひっかかるものをおぼえて仕方がなかった。
よーく考えると、クリスマスイブの夜に岬以外で用事があるとなると、ものすごーく問題な気もする。岬は気になってしまう気持ちを抑えきれず、帰りに聞くことにした。
「イブ、何か用事あるの?」
岬の言葉に、一瞬克也は複雑な表情を見せた。少しだけ眉がひそめられたのを岬は見逃さなかった。
それを見て、岬は余計に心配になってしまう。もしかしたら、二人で過ごしたいなんて言ってくれるのかも、なんてちょこっとだけ期待してしまった自分がバカだった。もしそうならそんな厳しい表情はしないはずだ。
しばらくの沈黙に何だか耐えきれなくなった岬はちょっと上ずりながらも無理やりあははっ、と笑ってみた。
「あ、いいのいいの!克也だって色々用事、あるよねぇ!?ごめんね、詮索するようなこと言ってっ!---だ、いじょうぶっ。克也に用事があるならあたしは晶子のために一肌ぬいでパーティーの方に行くから!」
横にいるのにまともに克也の顔が見られない。顔を見たらなんだか余計に滅入ってしまいそうで。
「やっぱり行くよ。パーティー。」
ぼそっと克也はつぶやいた。
「え・・・・・・?用事は・・・・・・?」
岬は克也を見上げた。
「多分・・・・・・何とかなる、と思う。本当はちょっと・・・・・・気の進まない用事だったし・・・・・・」
「・・・・・・克也と一緒の方があたしも嬉しいけど・・・・・・。----本当に大丈夫?」
そういう岬に克也はふわりと微笑みだけを返した。