聖夜(1)
クリスマスイブは結局、男5人女5人で集まることになった。
その内訳は、2年生の女子では晶子と岬。男性陣は克也とこの間一番にこの話に興味を持っていたクラスメートの笹木、男子バスケ部の富沢の3名。
3年生の女性陣は辻、杉沢、大野の3名でいずれもバスケ部に所属している。そして3年男性陣には、高島が呼んだのか利由が来ていた。
その中で恋人同士なのは晶子と高島、そして岬と克也の2組。
公立の学校は既に冬休みに入っていたが岬たちの学校は24日が終業式であり、一度家に帰ってから来たので皆私服である。
外はもうすっかり暗くなり、晶子の家の一室では宴たけなわ状態。
テーブルの上にはケーキの残骸がやお菓子、飲み物のボトルなんかが所狭しとひしめき合っている。その飲み物の中には『アルコール○%』なんていう表示のあるものまであったりする。
初めの方こそ全員で何かをしていたが、数時間たつとそれぞれ各自思い思いの話をしたり、つけっぱなしになってるテレビを見て笑ったり、まったりと過ごしていた。
その場にいるもの全員にアルコールが入っており、それがどんちゃん騒ぎに拍車をかけていたといえる。
しかし丑三つ時を過ぎ、一人寝、二人寝・・・・・・と、宴は静かに収束していった。
岬もそのまま吸い込まれるようにいつのまにか眠りに付いた。
ふと、岬は何とはなしに目を覚ました。
時計を見ると3時を回っている。自分はそれほど熟睡したわけではなかったらしい。
周りを見ると皆、見事に沈没している。一番大きないびきをかきながら眠るのはいつも厳しいバスケ部副部長の大野である。
その中でふと、高島と晶子が寄り添うように眠っているのに目が行く。そのほほえましい様子がうらやましく、思わず自分も克也を探したが部屋のどこにも見つからない。
『お手洗いにでも行ってるのかな?』
と思った岬は、自分もお手洗いにでも行っておこうと、毛布を羽織りながらのそりと暖房の付いた部屋を出た。
ひんやりとした廊下を少し行くと、テラスが見える窓の前に佇む克也を見つけた。
その横顔は月明かりに照らされて見事な陰影を落としている。遠くを見つめるかのようなその表情に少しだけ険しい光を見た気がして、岬は一瞬声をかけるのをためらう。
そんな岬の気配を察したのか、おもむろに克也が振り向く。
岬の表情が硬いのを気遣ったのか、克也はいつものようにふわりと微笑んだ。
「岬?起きたのか。」
「う、うん。何か急に起きちゃって・・・・・・。飲みが足りないかな?」
「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・それ以上飲んでどうするんだ?」
克也が呆れたように言う。
自分でも思い返してみると確かにピッチは速かったような気もするが・・・・・・。
「克也も起きちゃったんだね・・・・・・。そういえば克也はあまりお酒飲んでなかったね。」
「・・・・・・未成年だから。」
ふざけてそういう克也を岬は思わずどつく。
「少量でも飲んでりゃ違反だよ。」
「そうかな?」
お互いに顔を見合わせていたずらっぽく微笑む。
そんな少しのことが何だか岬にはとても貴重なものに思えた。せつなくなるほど。出会った時に感じたなんともいえない感情がまた甦ってくるようで、瞳に水分がたまってゆくのを隠すように、岬は顔を窓の外に向けると口を開いた。
「不思議だね。こんな夜更けにこうして克也と話していられるなんて・・・・・・。---暗いけど・・・・・・克也と一緒なら怖くない。」
自分でそっぽを向いてしまったから克也の表情は見えない。
普段なら恥ずかしくて赤面してしまうだろう言葉も、今はするりと言えた。
「克也ぁ・・・・・・。」
岬は克也の肩にそっと自分の頭をもたれさせる。
酔ったふりをして----、・・・・・・いや、本当に酔っていたからできた技(?)なのかもしれなかった。
「大好き・・・・・・。」
そんな岬の言葉に、克也は少しだけみじろぎした。
そしてやがて、克也の手は岬のほほをなぞった。
その指が自然と岬の耳のあたりにすべり落ちたとき。
少しだけ。
ほんの少し。
二人の影がひとつになった。
唇にあたたかい感触。
岬にとって初めての。
岬は急に力が抜けたような感覚に陥り、トンッと壁際にもたれかかってしまう。
克也も、岬から目をそらしたまま窓の外を見つめ続けていた。