聖夜(3)

 まだ正午には少しだけ早い時間だった。
 一行はパーティーのシメにと近くのファミレスに朝+お昼ご飯を食べに来たのだった。


 「な?昨日から俺、コイツ気に入っちゃったから。」
 そう言って利由は克也の肩にぽん、と手を置いた。妙に上機嫌の利由を横に、克也は少々困ったように苦笑している。
 確かに岬が思い出す限りでも、初対面だという割にはわりと初めの方から二人は打ち解けて話せていたようだったし、昨晩自分が寝た後も二人は何やら部屋の外で話していたような気が岬にはした。けれど自分も90%寝ていたし、何より小さな声だったのでどんなことを話していたかまでは分からない。
 「へぇー、このパーティーから知り合いが広がっていくって嬉しいよね。」
 晶子が嬉しそうに目を細める。
 「そんなこといって・・・・・・利由ってばアヤシイなぁ。男色の趣味でもあったの?」
 そういって茶化すのは3年の女子の一人の杉沢だ。
 「違うって?!確かにかわいいけどさ。」
 「げほっ」
 利由の口から"かわいい"の言葉が出た途端、克也は飲みかけていた水でむせた。居心地が悪そうな、何ともいえないような複雑な表情を利由に向ける。
 「まぁ、確かに、蒼嗣クンって見た目によらずカワイイ性格してるよね。」
 「そうそう。スかした顔つきしてて言葉少ななくせに妙に素直だしね。」
 さらに辻や大野に追い討ちをかけられた上、昨日会ったばかりの富沢にまで"そうそう"と相槌を打たれ、ますます克也は何もいえなくなっている。
 「いや、かなり転校当初はやなヤツだったんっすよ。」
 そう言うのはクラスメートの笹木だ。
 「変わったよな。やっぱり栃野とつきあうちょっと前ぐらいからだったかな、ホント、変われば変わるモンだよな?。」
 しみじみと言う笹木に、利由はにこにこと笑いかけた。
 「やっぱり人は恋をすると変わるもんだねぇ」
 利由は克也に意味ありげな視線を送る。
 自分と会って蒼嗣がいい方に変わったと言ってもらえた事で、岬は何だか嬉しかった。

 とにもかくにも、かくして利由と克也は堂々と"オトモダチ宣言"をしたのだった。
 傍目には、利由が一方的にトモダチ宣言をし、克也は無理やりうなずかされたというように見えたのだが。
 しかし、あまりにも自然な流れだったので、誰も疑問を挟む者はいなかった。
 その場の誰もが信じた。


 利由尚吾と蒼嗣克也はこのパーティーで知り合い、意気投合したのだ、と。


 それは利由にとって好都合なことだった。
 より自然な形で、長である克也の近くにいることができる。克也が竜一族の長であるという事実は本人が成人するまでは隠さなければいけない、というのが竜族の中での決まりごとだ。万が一にも秘密が漏れないように。そのために克也は竜族となるべく関わらないようにしている。竜族の集まる場所にも、年に数回長として顔を見せるだけだ。それも一族の中でも数人の者にしか姿は見せないという徹底ぶりで。それでも危ない時もあったが、何とか逃れて今に至っている。
克也は今年で18歳。あと約2年、この状態を守らなければならない。

 "もう一人の長"がいなくなってからは利由が、秘密を守るためにつかず離れずの距離から克也を見守る役目を負ってきた。今までは遠くから見守るだけで問題はなかった。だが、克也が自分の高校に転入してきたことで距離をとるのが難しくなっていた上、奈津河に連なる岬と克也が近しい関係になったことで状況はさらに危険な方向に傾かざるを得ないことになった。これまでのように離れた位置ではなく、何かあればすぐにフォローできるような体制を作っておく必要があった。
このパーティーはそういう意味で克也と自然な形で知り合うふりのできる千載一遇のチャンスでもあった。
 もともと、克也は頭の切れる方であり、わざと自分の生活を見せないよう極力親しい友人も作らずに淡々と過ごし、秘密の露呈を免れて来ていたので、それほど自分が出る幕はなかった。しかし、最近はわざとなのかそれとも本当に変わったのか、克也は他人との間に引く境界線をあまり意識しなくなったように思える。それが吉と出るのか凶と出るのか。利由にも全く予測が付かないところであった。

 今流行の歌の着メロが利由の携帯から鳴り出し、利由は"ちょっと失礼"と席を立って店の入り口の方に移動していった。どうやらここは電波が弱いらしい。
電話がかかって来た時、克也は目だけでちらりと利由を見やった。一瞬の鋭い視線に気付いたものはその場にはいなかったが。
 岬は、どうも克也が少々上の空でいるような気がしてしょうがなかった。
 克也のセーターの腕の部分をちょこっとつまむ。
 他の人はそれぞれめいめいの話に盛り上がっている。
 「どうかした?調子悪い?」
 「あ。ゴメン、ちょっと寝不足かな・・・・・・」
 克也もにこりとするが、どこかよそよそしい感じがして岬はそれ以上何も言えなくなる。
 その後すぐに次々とみんなのたのんだ料理がが到着してしまったので、それ以上は二人だけでの話はすることはなく終わった。

 帰り道、同じ方向だということで、克也は利由と同じ路線の電車で帰っていった。
 最後まで一緒にいられないことは岬は少し残念に思ったが、すでに冬休みには何度かデートする約束は取り付け済みということであまり深くは考えなかった。



       ******     ******

 「それで・・・・・・どういうことだ?」
 二人だけになると、克也はこらえきれないように利由に詳しい説明を求めた。
 「俺にもまだ良くは分からない。でも多分・・・・・・」
 その言葉と表情だけで克也には、それが奈津河がらみのことだと分かってしまった。
 利由が小声で続ける。
 「今は水皇さんがあらゆる手を尽くして調べている。------でも大丈夫だ。きっと岩永氏は無事だ・・・・・・彼は竜族の中でも中枢の秘密を握っている。それは奴らだって重々分かっていることだ。そうそう簡単に消せるわけがない。」
 「・・・・・・分かっている・・・・・・」
 そう言いつつも克也はどこか動揺を隠せなかった。

 「------こんな、大変なときに・・・・・・俺は・・・・・・」
 そう言って克也は辛そうに瞳を閉じる。
 「バカだな。こんなこと誰が予測したよ。それをいうなら俺だって同じだ。四六時中そんなの気にしてなんかいられるか。お前は珍しく普通の高校生らしいことしてただけだ。誰も責めやしない。」
利由にそう励まされても、克也の気持ちは晴れることはなかった。

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