◆ファンタジー要素の少ない1章半ばまでをショートカットするためのダイジェスト版もございます。
 * 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/  * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/

接近(3)

「ごめんね、蒼嗣くん。無理やり実行委員やらせちゃって・・・・・・」
初めての実行委員会の会議が終わり、教室に帰る途中で圭美はそう切り出した。
勢いで言ってしまったものの、良く考えれば考えるほど、自分のしたことがとんでもなく迷惑極まりない行動だったと、思えてくきたからだ。
蒼嗣は、会議の重要事項はノートにメモしたりとやることはきちんとやっていたが、会議中はもちろん会議前、会議後、今の今までひとこともしゃべらなかった。

「怒ってるでしょ?だから何も言ってくれないんだよね・・・・・・」
圭美はうなだれた。
蒼嗣はそれまで自分の目の前を見つめていたが、うなだれる圭美の姿に視線を落とすと
「・・・・・・そういうことじゃない。・・・・・・別に怒ってはいない・・・・・・。最終的に引き受けたのは俺だから。・・・・・・ただ少し驚いてるだけだ。」
と低い声でつぶやいた。
圭美は、蒼嗣が自分に向かってきちんと話してくれたのは初めてだったので、嬉しくもあり、驚きもした。何しろ、いつも蒼嗣は、話しかけても一言、二言ぽつりぽつりと返ってくるだけだった。女子には誰に対してもそんな調子だったから、今まで圭美は特にライバルたちを気にすることもなかった。
蒼嗣はそういうクールな人なのだと納得して、自分はマイペースに蒼嗣に近づいていきたいと思っていたのだ。
しかし、ひとつだけ気になることがあった。
蒼嗣のそんな女子に対する態度に、唯一の例外があるということだ。

いつも冷静で、クールで。
そんな彼が、一人の女の子にだけは感情をあらわにするのだ。
それがポジティブな感情ではないにせよ。


それが圭美には悔しかった。彼女がうらやましかった。
さらに、それが自分がすごく大好きな親友だったから、余計に悔しかった。大嫌いなヤツだったらここまで複雑な気持ちにはならない。
圭美は最近、かなりそのあたりの複雑な気持ちを持て余し気味だった。
そんな時に実行委員選出が行われた。
チャンスだと思った。少しでも彼のそばにいるために。
他の女の子たちのように、群がりたくはない。あくまでも色目は使いたくなかった。正当な理由で彼に近づきたかった。

---嫌われてもいい----

そんな覚悟で、実行委員選出時にあの"条件"を出したのだ。
----とはいえ、やはり本気で嫌われるかと思うと、どうしようもなく苦しかった。
だから、蒼嗣のこの言葉は、自分にきちんと話しかけてくれたという意味でも、嫌われてなかったという意味でも、嬉しいことだった。

そこで、安心してずっと聞きたかったことを聞いてみた。
「蒼嗣くんって岬とよく喧嘩してるよね。」
その言葉に、蒼嗣は一瞬止まってから
「・・・・・・・・・・・・まぁ・・・・・・・・・・・・」
と、あいまいな答えを返した。
「岬はあたしの親友で、そりゃ確かに少しは気の強いところがあるけど、悪い子じゃないんだけどな。・・・・・・でも蒼嗣くんの前だとなんか変に意地張ってるみたいな気がするんだよね・・・・・・。・・・・・・でも、蒼嗣くんも岬に対しては他の子達と反応が違うよね。・・・・・・どうして?」
たたみかけるような圭美の質問にしばらく考え込むようなしぐさをしていた蒼嗣だったが、やがて口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・分からない・・・・・・」
「・・・・・・分からない・・・・・・?」
圭美は蒼嗣の言葉を不思議に思った。
あんなに明らかな態度の違いを見せているのに、その理由を蒼嗣自身が分からないなんていうことがあるんだろうか?それとも、ただ単に自分には教えたくないだけなのか。

蒼嗣の顔を見つめる。
相変わらずクールな蒼嗣の表情からは何を考えているのかは読み取れなかった。でも、何かを考えているのは確からしかった。
・・・・・・きれいな横顔。ずっと見つめていても飽きない。
感情が表情に現れにくい、ミステリアスさを持っていて、。
話してみるとその口調はクールながらもどこか優しくて。
思わず惹かれずにはいられなくなる。
もっと、彼のことを知りたくなる。

その蒼嗣のまなざしが圭美の視線とふとぶつかりあった。
---が、すぐに蒼嗣は何気なく視線をそらした。
「・・・・・・あたしには・・・・・・怒らないんだ?」
圭美は、自分の腰に手を当てながら、横から少しだけ蒼嗣の顔を覗き込むようにした。
不意をつかれたような蒼嗣。表情がわずかに動く。
それが圭美にはとても嬉しい。
岬にだけ見せた感情の片鱗が自分にも引き出せたことが。それは岬の名前をだしにするという手段をとったものだったけれど。
「今は怒る気にはならないけど・・・・・・。・・・・・・・・・・・・他人に・・・・・・・・・・・・じろじろ見られるのは得意じゃない。落ち着かなくて。」
そう、ぽつりと言う蒼嗣は、今までより少しだけ人間くさい気がして圭美は笑った。
「・・・・・・そりゃ無理だよ。蒼嗣くんみたいな顔立ちの整った人に見とれるな、っていう方が無理だって。」
少し怪訝な表情をする蒼嗣。しかしその表情に怒りは感じられない。
「笑ってごめんね。・・・・・・でも、その気持ちなら少し分かる気がする。」
岬に対する態度の違いの理由には、それだけでは説明が足りなかったが、今はそんなことはどうでも良かった。圭美はただ、これで今までより蒼嗣と少しだけ近づけたようで、心が浮き立っていた。

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