◆ファンタジー要素の少ない1章半ばまでをショートカットするためのダイジェスト版もございます。
 * 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/  * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/

意外な再会(1)

学校のある駅から一駅。
この駅の周辺はこのあたりで一番栄えている。駅の改札を出るとにぎやかな商店街を抜けてひとつ路地へと入った途端に住宅街になる。その一角に小さなアパートがあった。決して新しいとはいえないが、それなりに整えられている。
二階へと続く階段を上るとドアが三つ。
蒼嗣は、持っていた鍵でその一番手前のドアを開けた。
暗くなった部屋。月明かりだけがほのかにそこに存在するのものの輪郭をふちどっている。
ふっ、とその部屋の一点に蒼嗣の目は向けられた。
月の光の輪郭を持たない存在。
確かにそこに存在するものだというのに、光とは無縁な存在だ。

――ああ、お前か・・・・・・

蒼嗣は心の中でつぶやいた。
『それ』はたびたび現れては思い出したくないものを思い出させる。

――お前は何のために現れる?

問いかけても答えは返ってこない。ただただ「それ」は今、そこにたたずむだけなのだ。

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キーンコーン カーンコーン ・・・・・・

4時間目の終了を告げる鐘がなった。
そのとたん、教室は一度に活気を取り戻した。
一目散に学食に向かう者、仲の良い子たちとお弁当を食べる場所の相談を始める者、さまざまである。
いつもならすぐに圭美と共に学食に直行コースの岬だが、今日は岬はお弁当を持ってきていた。すでに社会人として働いている姉が作ってくれたものだ。岬の母は他界して既にいないが、母親代わりの姉はよく面倒を見てくれる。
お弁当を持ってきたのは今月はちょっとお小遣いがピンチで節約モードに入っているからだ。バイト代が入るまであと数日。それまでになんとか乗り切らなくてはならない。
岬のバイト先は家の近所のファミレスである。岬はバスケ部にも入っていて、部活もやりながらはかなりきついところもあるが、結構楽しんでやっている。
今日も学校が終わればバイトが待っているのだ。

「あ、そうか。岬ってばもう節約モードかぁ」
いつものように学食に一緒に行こうと誘いに来た圭美は岬の机に出された弁当箱をまじまじと見つめた。
「いいよねー岬は。港さんっていう素敵なお姉さまがいてさー。うらやましいよ。うちの母親なんて一年に1回作ってくれるかどうかってとこだもん。」
「うん。ホント幸せものだと思う♪」
岬はおどけて大げさに胸の前で両手を組んで、まるでお祈りでもしてるようなポーズで"感動"のしぐさをした。
「あはは。ほんっとに姉妹仲がいいんだから?」
圭美もその様子にからからと笑う。
---岬と姉の港はは5歳違いである。やはり若くして母と死別したという逆境にあるからだろうか?誰もが認めるほど仲の良い姉妹だ。もともと姉の港はしっかり者ではあったが、母が亡くなってからは余計にそれが強くなった気がする。そんな港に甘えて岬はのびのびと過ごしてこられた。
感謝してもしたりない、岬にとっては頭の上がらない姉だ。

「そういえば、岬、明日朝練だけど大丈夫?」
「げっ、そういえば忘れてた・・・・・・」
今日は夜遅くまでバイト、それなのに明日の朝練というのはとてもつらい組み合わせなのだ。撃沈する岬に、圭美はひらひらと手を振った。
「がんばってね♪」
「圭美・・・・・・それ、思いっきり皮肉でしょ・・・・・・」
恨めしそうに見上げる岬に、圭美は微笑だけでで答えたのだった・・・・・・。

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