* 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/ * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/
* 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/ * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/
陰謀と衝撃(1)
時は昼下がり。校舎の影の芝生の上で男女が向き合って座っている。
女の年のころは17、8ぐらいか。セーラー服の襟元にかかる髪は緩やかに外に流している。
「ねー、将高ー。」
「何でしょう、麻莉絵さん。」
女の呼びかけに、"将高"と呼ばれた男がニコニコと微笑みながら答えた。この男も同じ年ぐらいだろうか?髪は長すぎず短すぎず。全体的におとなしい印象がある。
「またお祭りがあったみたいね」
「お祭り?・・・・・・お祭りの時期はとうに過ぎたものかと・・・・・・」
男---将高---はしごくまじめに答える。ニコニコと微笑んだまま。
「・・・・・・あんた、それ、真面目に言ってる?」
「・・・・・・麻莉絵さんの前では僕はいつだって真面目ですよ?」
わざと真剣な表情を作って答える。
まともに相手をしても仕方がない、と悟ったのか、女---麻莉絵は話題を変えた。
「"宝刀"はまだ見つからないの?」
「・・・・・・そのようですねぇ。」
「まったく・・・・・・なんとかならないものかしらねぇ・・・・・・。あの方がたいそう心配なさってたもの。」
ため息をつく麻莉絵を横目でちらと見やると、将高は口の端を微かにゆがめた。
「あの方の心配とは、どういう種類の心配ですかねぇ?---"宝刀"が手に入らない方か、それともその持ち主が手に入らない方か・・・・・・。二兎を追うもの一兎も得ず・・・・・・といいますからねぇ」
その言い草に麻莉絵はキッと将高を睨み付けた。
「あんた。それあの方への不敬って言わない?」
「麻莉絵さんはあの方に少々傾倒しすぎですからちょうどいいかもしれませんね。」
麻莉絵は一瞬まばたきをとめた。
「・・・・・・何の話よ?」
「僕と麻莉絵さんの将来の話ですよ。」
にっこりと微笑む。
「------何寝ぼけたこと考えてるのよ。・・・・・・誰があんたと私の将来の話をしろって言ったわけ?」
「話というものは常に動いていくものですよ。」
「だからそういうことじゃなくてっ!」
麻莉絵は一気に脱力したように肩を落とす。
そんな麻莉絵を愛しいそうに見つめ、将高はしばし真顔になる。
「この前の"お祭り"によって竜の一青を消すことができたってことは一番の収穫かな。あの人はどうもちょろちょろして目障りだった。まだ片割れが残っているけれど。---まぁ、彼にもすぐに消えてもらいますけどね。」
そんなことをさらりと言う将高に麻莉絵は、『なんだ。ちゃんと"お祭り"の意味分かってるんじゃない。』と、不敵に微笑みかける。
「----怖い人。---その微笑に何人騙されたのかしらね。」
「"争いによる殺し"を"お祭り"と言って茶化せる麻莉絵さんほどではないですよ。」
「食えないヤツだわね。あんたって。」
「---それはほめ言葉ととっておきましょう」
二人は見つめあって肩をすくめる。
「では、早速、彼に消えてもらいましょう」
「そうね。それがいいわね」
まるで今度のデートの場所を決めるかのような二人の口ぶりだった。
■■■■■■■■■■■■■■■
「あれ?」
パスの練習をしていた岬は、圭美の姿を見て動きを止めた。
圭美は今日は文化祭実行委員の集まりがあるということで、蒼嗣と一緒に会議に出ていて今日の部活は休みのはずだった。
おりしも休憩の合図がかかる。
「どうしたの?圭美」
キャプテンが圭美に声をかけようとするより早くそばに駆けつけた岬は、圭美の後ろに蒼嗣がいたことに驚いた。
「どうしたの!?圭美」
「あ、蒼嗣くんね。帰るっていうところを無理やり連れてきちゃった。」
妙にはしゃいでいるような圭美の後ろで、蒼嗣は居心地が悪そうにしている。
「・・・・・・見てくの?」
岬は蒼嗣を見上げる。身長の低い岬には長身の蒼嗣は余計に大きく見える。視線がまっすぐぶつかった。
「あ、いや・・・・・・。部外者の俺なんかが見てたら迷惑だろうし・・・・・・」
蒼嗣らしくなくもごもご言っている。
「やだ、蒼嗣くん。全然迷惑じゃないって。今日は顧問の先生いないし。逆にみんな蒼嗣くんなら歓迎してくれるって。」
圭美にそう言われても気の進まなそうな蒼嗣だったが、すぐに他の2年生部員たちもどやどやと周りに集まってきて口々に見ていてほしいというものだから、蒼嗣もしぶしぶその場にいることを承諾した。
『・・・・・・なんだかんだいって、蒼嗣ってつきあいがいいんだよねぇ・・・・・・。・・・・・・というよりただ単に押しに弱いだけなのかな?』
岬は、所在なさげに体育館の入り口付近にたたずむ蒼嗣の姿を横目でちらりと見やった。
なんとなく後者のような気がして笑ってしまった。