* 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/ * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/
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陰謀と衝撃(2)
蒼嗣はぼんやりと体育館の中を見ていた。
不思議なことにどうしても一人の女の子に目がいってしまう。
別に見ようと意識しているわけではない。
それなのに・・・・・・である。
多分しばらく見れば飽きてくるだろうと、練習が終わるまでのヒマをつぶすために読もうとして持っていた本も読まないままになってしまった。
その女の子の名前を心の中でつぶやく。
『・・・・・・栃野、 岬・・・・・・・・・・・・』
バスケをやっている時に限らず、小さな体でいつもちょこまかと動き回っている気がする。くるくると表情が常に変わる。それが面白い。なんとなく目が離せない。
いつのまにか気がつくと目がいっている。
他の人にされてもさして気にならないことが、彼女がやるととても気になる。
『あいつ・・・・・・俺にとって、何なんだろう・・・・・・?』
自問してみる。
"チビで・・・・・・怒りっぽくて・・・・・・・・・・・・危なっかしくて・・・・・・"
出てくる答えは決して好意的な言葉ではなかった。
『・・・・・・・・・・・・分からない・・・・・・・・・・・・』
蒼嗣は深くため息をついた。
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その日、律儀に練習が終わるまでその場にいた蒼嗣は、数人の女子---もちろん全てバスケ部である---に囲まれながら駅まで歩くこととなった。
女子の一人が思いついたようにこんなことを言った。
「そういえば、岬と蒼嗣くんってちょっと雰囲気変わったよね?」
岬はどきりとする。
その隣にいた女子も口を挟む。
「そうだよね。蒼嗣くんが転校してきたばっかりの時にはケンカばっかりしてたけど、最近はあんまりケンカにならないもんね。・・・・・・なりそうな時はたくさんあるけど。」
-----そうなのだ。
あの、バイト先で会った日から確かに二人の関係は微妙に変化が起きていた。お互いにケンカしそうになると一歩手前でどちらかが引くようになっていたからだ。
圭美も口を開いた。
「・・・・・・そうだよね・・・・・・。なんかあった・・・・・・?」
岬の心臓はどきりとした。
実は、蒼嗣とバイト先が一緒だということを岬は親友の圭美にも話していなかった。なんとなく言いそびれてしまったというのもある。そして、蒼嗣が、バイトのことをあまり他人に知られたくないらしいことが伝わってきたからというのも。---しかし、一番の理由は違った。
他の人が知らないはずの自分だけの蒼嗣の姿を、自分勝手なことだと思いながらも独り占めしたいと思ってしまったのだ。
もう岬には分かっていた。
自分が、そんな想いを抱いてしまうほど蒼嗣を好きだということ。
圭美は委員会で蒼嗣と一緒で、そこでも自分の知らない蒼嗣を見ているのだろう。自分にはそこには立ち入れない。・・・・・・だからせめて、このことだけでもそっと自分だけの宝物にしたい・・・・・・そう思ってしまった。好都合なことに蒼嗣はもともとあまり自分のことを話す方ではないので、他の人はおろか、委員会がらみでよく行動を共にする圭美にもバイトのことは言ってないようだったのだ。
かくして岬は、それまで何でも言い合っていた圭美との間に初めて意識して秘密を作ることになってしまった。
「ううん、何もないよ。今だってかなりケンカしそうになるし。・・・・・・ねー蒼嗣?」
秘密を持っていることを悟られないよう、岬は努めて明るく言った。
蒼嗣と視線がぶつかる。
「・・・・・・・・・・・・あ、まぁ。・・・・・・」
いきなり岬に話題を振られた蒼嗣は間の抜けた返事を返した。しかし二人の雰囲気は以前のように悪くはなかった。
「ホラ!そういうところがだよー!何か通じ合っちゃってるようなとこ、あるよねぇ。」
さっきこの話題を始めた女子が茶化す。
周りはきゃはは、と笑っていたが、圭美はあいまいな笑みを浮かべるだけだった。
はっきりとはしないものの、岬と蒼嗣の間にある"何か"を感じ取ってしまったのかもしれなかった。
------そんな時だった。
一人の男がものすごいスピードで走ってきて、一番端にいた圭美の後ろから体当たりしてきた。
「痛っ!!」
圭美が顔をしかめる。
男は走っていたために少し行き過ぎたが、圭美の声に反応して振り向き、
「悪い!!」
と謝った。男はスーツ姿だった。サラリーマンだろうか?
「やだぁ・・・・・・」
その男の姿を見るなり、岬たちと一緒にいた女子のひとりが悲愴な声を上げた。
その男のスーツの袖の上部が刃物で切られたように一部ざっくり切れており、そこから大きな切り傷のようなものが目に入ってきたからだ。
その場にいた誰もが目を見張った。
------そして次の瞬間、男の表情も少し動いた。
その時。
どぉぉんっ!!
いきなりの轟音と閃光が岬たちを襲い、その瞬間、岬は地面に叩きつけられた。
何が起こったのか、分からなかった。
倒れた拍子にひじか何かを打ったらしく、腕がジンジン傷む。
そのままとっさに目を開けると、目の前に蒼嗣の白いシャツと胸元があった。蒼嗣に体ごと覆いかぶさられてかばわれるような体勢になっていたからだ。
蒼嗣は少し体勢をずらすと岬の顔を覗き込み、何かを口にしかけた。
が。
「痛いっ!!!いたいぃ----っ!!!」
「いやぁぁぁぁっっ!!!」
その叫び声に岬はがばっと起き上がった。蒼嗣も振り返る。
そこにはまるで地獄絵図のような光景が広がっていた。
泣き叫ぶ知人たち。体中のあちこちから血が流れ落ちている。
そしてうずくまる圭美。やはり体中血だらけだ。
「きゃぁぁぁぁっ!!」
岬は何がなんだか分からなくなって叫んだ。他にどうすることもできなかった。
「何だ!?どうしたんだ!?」
爆音に気付いた近所の人たちがどやどやと集まってきた。
「救急車!!誰か!!」
慌てて駆け出す大人たち・・・・・・。増える野次馬。
騒ぎの中、岬はただ、震えていた。
------蒼嗣の、腕の中で。