◆ファンタジー要素の少ない1章半ばまでをショートカットするためのダイジェスト版もございます。
 * 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/  * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/

陰謀と衝撃(3)

 『このように、爆発は男の持っていたと思われる爆発物に原因があると思われ・・・・・・』
 『爆発に高校生が巻き込まれ、爆発物を持っていたとされる男も含めて2人が死亡し・・・・・・』
 『この男の身元の確認は現在まだできておらず・・・・・・』
   
 連日のように、テレビは事件について憶測も含めて伝えていた。
 岬たちの巻き込まれた爆発は、走ってきた男が持っていたとされる爆発物が何らかの刺激で爆発したというのが大方の予想である。
 しかし、真相はまだ謎のまま、というのが現実だった。
 何しろ男は爆発で死亡してしまい、身元すら確認できないほど酷い有様だったからだ。
 この奇怪な事件に世間は大騒ぎしていた。
   
   
 岬は軽症であったが、精密検査のために入院した。
 その結果、腕や足のかすり傷と打撲、そして倒れたときについた腕の骨折だけであとは異常がないことが分かった。あの爆発の中でこれだけ軽症で済んだのはまさに奇跡だと医師たちは口をそろえて言った。
 また少しすると警察が何度も事情聴取に現れ、岬は精神的にも疲れていた。
 そして、あの血に染まった惨状が頭に焼き付いて離れず、一日に何度も頭痛と吐き気に襲われ、とても退院できる状態ではなかったため、しばらく入院することとなった。
   
 しかし、岬には自分のことよりも気にかかっていたことがあった。
 亡くなったと聞かされた同じ部の部員のこと。クラスが違うしそれほど親しくもなかったが、ずっと同じ部活でやってきた仲間で友達だった。とても胸が痛んだ。どう説明したらいいのか分からない、やるせない気持ちだった。
 そして、一番気がかりだったのは親友の圭美のことだった。
 聞くところによると、一命は取りとめたものの、死ぬか生きるかの危険な状態だという。
 あの時見えた、血だらけだった圭美。明らかに重症だった。
 しかし自分もベッドから起き上がるのもやっとで、詳しいことを確認することもできなかった。

  「岬。つらいの?」
 見舞いに来てくれている姉の港が岬の背中をさすってくれる。仕事で忙しい中、こうして毎日会社帰りに寄ってくれている。マスコミがうるさいらしく、なかなか友人も見舞いに来づらいようで岬としても心細かったが、姉のおかげでずいぶん気分的に救われていた。
  「ん・・・・・・今は平気・・・・・・・・・・・・。ありがと・・・・・・」
  「良かった。・・・・・・ほんとに全くハタ迷惑なヤツもいるもんだわね。危険物を持ち歩くときにはもっと気をつけて欲しいもんだわ」
 港が安堵のため息を漏らし、怒りもあらわにつぶやいた。

  「ねぇ、お姉ちゃん。---圭美のことについて何か、分かった?」
  「うん、圭美ちゃんね・・・・・・。さっきお医者さんに聞いてはみたんだけど・・・・・・まだ意識は戻らないみたい・・・・・・。それに外傷もひどいらしいの。---詳しくはまだ分からないんだけど・・・・・・」
  「そっか・・・・・・・・・・・・」
 相変わらず状況は変わっていないらしい。
  「あ、でもね、岬。あんたと一緒にいた男の子、なんてったっけ?・・・・・・ナントカくん」
  「・・・・・・蒼・・・・・・嗣?」
 岬は心臓がどきんとした。
 軽症だとは聞いていたとはいえ、彼のことも心配だったからだ。

  「彼は退院したらしいよ。」
 港の言葉に、岬は心からほっとした。
 蒼嗣も精密検査を受けたが、岬と同様かすり傷程度だったという話で、よほど二人のいた位置が良い場所だったのだろうと皆は推測しているのだという。
   
   

 コンコン。
 ドアをノックする音が聞こえた。
  「はーい」
 港がとりあえず答える。ここは二人部屋なのでもう一人の方のお客かもしれないが、あいにく同室の人は検査か何かでここには今いなかったため、一応返事はしてみる。
   
 シーン。
 その後、いくら待ってみても入ってくる気配がないので、岬は港と顔を見合わせた。
  「ちょっと見てくるね」
 そう言って港はドアを開けにいった。
   
 キィ・・・・・・
ドアを開く音。
 岬は横になったまま、視線だけをドアの方に向けた。
 しかし仕切りのカーテンが邪魔で様子はよく見えない。
  「どちら様のお見舞いでしょうか?」
 港のよそ行きの声が聞こえる。
  「あ・・・・・・、栃野さんの、ですけど・・・・・・」
 その声を聞いて岬は一気に顔が赤くなるのを感じた。
 間違えるはずもない。
  「あれ?岬のお見舞い?」
  「はい。蒼嗣、といいいますが・・・・・・」
 岬の思ったとおりだ。
 それを聞いて港も声が1オクターブ高くなった。
  「あっ、あなたあの蒼嗣くんね!入って入って!」
 ぐいぐいと蒼嗣を病室に引き入れる。
   
 ドアが閉まるなり、港は蒼嗣に向かって深々と頭を下げた。
  「岬から聞きました。あの爆発のとき、岬をかばってくれたそうで・・・・・・。あなたがかばってくれたおかげで岬はこんなに軽症で済んだんだと思います。なんとお礼を言っていいか・・・・・・」
  「あ、いえ。俺はたいしたことは・・・・・・。-----ただ、反射的に体が動いただけで・・・・・・・・・・・・」
 蒼嗣の少し慌てるような声が聞こえる。
   
  「---お姉ちゃん・・・・・・?」
 岬は少々しびれを切らして声を出してみた。
  「あっ、ごめんなさい。---蒼嗣くん、こちらへどうぞ」
 岬の声に港が反応した。
 カーテンを少し開けて港が顔を出す。蒼嗣もその後から顔を出した。
  「あ・・・・・・」
 岬は蒼嗣の顔を見るなりなんだか安心してしまって、次の瞬間、不覚にも涙が出てきてしまった。蒼嗣はそのクールな瞳を少し見開いて岬を見ている。
  「・・・・・・ごめ・・・・・・。色々、あった、から・・・・・・。やだ・・・・・・なんで泣くんだろ、ねー・・・・・・」
 何を言おうとしているのか自分でも良く分からない。
 蒼嗣は黙って岬を見つめていた。
   
  「岬、私はちょっとお手洗い行って来るね。」
 気を利かせたのか、港はそう言うと部屋から出て行ってしまった。

 ――更なる沈黙。
   
  「あ、私・・・・・・蒼嗣にお礼言わなきゃ・・・・・・」
 岬は思い出したように言った。
  「・・・・・・いい。そんなこと・・・・・・。」
 相変わらずのぶっきらぼうな口調。それでも岬にはもう彼が冷たいとは思わない。その裏に優しさがあることを知っているから。
   
 あの時。
   
 他の誰でもなく、とっさに自分だけをかばってくれた蒼嗣。感謝すると同時に、ささやかな期待も生まれてしまう。当人には深い意味はないかもしれないとは思いつつも。
  「いいの。言わせて。----蒼嗣----ありがと。」
 蒼嗣は不意を突かれたような何ともいえない表情を浮かべた。
  「----ごめん------」
 それが次に蒼嗣の口から発せられた言葉だった。
 岬には何のことだか分からなかった。
 そう言った蒼嗣の表情は何だか苦しそうでもあり、何故か岬はそれ以上追究することができなかった。
 この表情の意味を岬が知るのはもうしばらく後のこととなる。
   
   
 ■■■   ■■■
   
   
  「ねぇちょっと将高?」
 放課後の部室。部屋のドアには『天文部』の文字。
 麻莉絵は明らかに不満そうな表情でオレンジジュースの入った缶の口を指でなぞる。
  「何でしょう?」
 対して将高はいつものポーカーフェイスである。
  「今回のはちょっとやりすぎたんじゃないの?」
 そう言って麻莉絵はテレビを指差した。この部室には珍しくテレビがある。テレビには『謎の爆発 高校生ら死傷』の文字とともにアナウンサーが事件の様子をものものしく伝えていた。
 「あれは相手がいけなかったんですよ。あんなにうろちょろするとは思わなかった。-----一撃でやれなかったのは僕の力が鈍ったって事でしょうか・・・・・・。」
 あごに手を当てて少しかなしそうな表情を浮かべる将高。
  「----相手が悪かったんでしょ。・・・・・・それか、あんたが油断したか。」
  「ふふ。優しいですね。麻莉絵さんは」
 ニコニコと嬉しそうな将高に麻莉絵もはっとする。
  「-----っって、そういう話じゃなくてっ!」
  「まぁ、いいじゃないですか。結局ヤツは消えましたし。」
 そう言って人差し指で机をトンッと叩く。
  「・・・・・・それはそうだけど・・・・・・一般人を巻き込むとあの方が嫌がるのよ。」
  「----また、始まりましたねぇ。麻莉絵さんの口からあの方の話題が出ない日はありませんねぇ。---ちょっと妬けますね・・・・・・。」
  「何バカなこと言ってるのよ。あんたとあの方とを比べる行為自体がそもそも間違ってるわ」
 迷いのない麻莉絵の言葉に、将高は苦笑した。
  「それにしても。」
 麻莉絵にはこの話題が本当にたいした事ではないようで、するりと話題を変えた。
  「きっと竜の方では慌てていることでしょうね。これで竜の幹部クラスが2人も消されたわけだから。」
くすくすと笑う。
  「---幹部、といっても下っ端ですけれどね。それに、あちらの規模からしてもまだまだ余裕は消えていないのでは?」
 将高冷静に分析する。
  「---まぁね。----、でもやっぱり今回のあいつも口を割らなかったわね。謎の御大とやらの正体を。---あんなに痛めつけてやったのに。」
 麻莉絵は本当に悔しそうに唇をかむ。
  「あせることはありませんよ。こうして外堀を埋めていけばいつかは御大とやらの正体にたどり着くでしょう。」
 その言葉を聞いて麻莉絵は微笑む。
  「御大----幹部クラスの者にしか姿を見せない竜一族の長とやらはどんなヤツなのかしら・・・・・・。-----きっとヤらしい目をしたスケベオヤジに違いないけど。で、きっと美女を数人横にはべらせてウハウハ言ってるんだわ」
 そんな麻莉絵の言葉に、将高は再び苦笑する。
  「麻莉絵さんの想像力は少々たくましすぎるところがありますねぇ。」
 いつの時代のことか、とつっこみたくなるのを抑えて将高は言葉を濁した。
 そこでふいに将高は言葉を切って真面目な顔になる。
  「それよりも----。---ふと気になることがあります。----あの時----」
  「あの時----って、あいつを一般人の近くで攻撃しちゃった時?」
 麻莉絵は空になった缶をもてあそびながら確認する。
  「ええ。---あの時---なんだか・・・・・・あの男以外の力の波動をわずかに感じた気がしたんです。奈津河のものか、・・・・・・竜のものか・・・・・・判別はつきませんでしたが・・・・・・」
   
   
■■■   ■■■
   
   
 知らせは当然竜一族にも届いていた。
   
 一青という男の片割れである竜季-----いつかの傷だらけの男----が、奈津河の大貫将高に殺されたということが。

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