◆ファンタジー要素の少ない1章半ばまでをショートカットするためのダイジェスト版もございます。
 * 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/  * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/

嫉妬(1)

 朝のホームルームで担任のMs.石倉から"圭美の意識が戻った"ときかされたのは、あの事件からしばらく経った頃だった。
 岬も蒼嗣も既に学校に復帰していたが、事件のことは二人はもちろん、クラスの中でもあまり多くは語られなかった。ただ黙々と文化祭の準備だけが続けられていた。
 なんとなく重苦しい生活の中、久々の明るいニュースに岬もほっと胸をなでおろした。
 その日はまだ面会はできないということだったので、数日たって岬はいてもたってもいられず圭美が入院している病院へ駆けつけた。
 しかし、岬を待ち受けていたのは意外な反応だった。
 圭美は友達の誰とも会いたくないのだという。
 対応してくれた圭美の母親の話によると、爆発でかなりの深手を負っていてその状態はかなり悪く、特に全身に広がるやけどは身体的にも精神的にも相当圭美を苦しめているらしかった。だからしばらく落ち着くまでは誰にも会いたくないというのだ。
 何日も、岬は病院へ訪ねて行っては、会えずに帰ってくる日が続いた。

 「・・・・・・ふう。なんだかつらいね・・・・・・」
 紙パックのコーヒーにさしたストローに口をつけて晶子がため息混じりに言葉を吐き出した。
 「・・・・・・うん。・・・・・・・・・・・・あんなに明るくて強かった圭美がね・・・・・・誰にも会いたくないほどになっちゃうなんて・・・・・・。」
 もう一人の友人である実夏も机に頬杖をついたままぽつんとつぶやく。
 「----私・・・・・・部活が終わったら今日も一人ででも行ってみる。今日こそは会ってくれるかもしれないし・・・・・・」
 岬はつとめて明るく言った。そう言わないと余計に心が滅入ってしまいそうだったからだ。自分自身も本調子ではなかったが、けれど圭美の苦しみに比べたらそんなことは何でもないことだと自分に言い聞かせていた。

■■■■■■■■■■■■■■■

 その日。
 岬が病院を訪ねると対応してくれた事務員から、先に一人圭美を訪ねてきた人がいると聞かされた。それなら人に会う気になってくれたのかと、岬は嬉々として病室の前に立った。
 しかし、中から聞こえた声に岬はノックしようとした手を寸前で止めた。ドア付近にゴミが落ちていてそれにひっかかってドアがきちんと閉じられておらず、そのために声が聞こえてきたのだ。
 ----中から聞こえてくる声。はっきりとは聞き取れないが岬には分かってしまった。


 蒼嗣だった。


 岬は気になる気持ちを抑えることができなかった。
 ドアの隙間から瞳を凝らす。

 圭美はベッドに横たわっているようだった。
 ベッドのそばにはたくさんの機械が動いていて、まだ圭美の容態は退院できるほどではないことが見て取れる。
 そしてベッドの傍らにたたずむ蒼嗣。

 「・・・・・・な、姿・・・・・・あな・・・・・・に一番・・・・・・・・・・・・見られたくなかっ・・・・・・のに・・・・・・」
 ドアに顔を近づけているせいか圭美の細々とした声が耳に入ってきた。
 「---悪い。・・・・・・でもどうしても、会っておかなければ、と思ったから・・・・・・」
 蒼嗣の声。


 次の瞬間、岬は氷で固められたように動くことができなくなってしまった。

 ---圭美の手が、蒼嗣の手を引き寄せた-----のだ-----

 その様子は、その前後を知らない人が見たら恋人同士が手をつないでいるように見えるに違いなかった。
 蒼嗣の手を握ったまま、圭美は嗚咽を漏らした。
 泣いている圭美に手を握られたそのままの体勢で、蒼嗣は身動きひとつする様子もなかった。

 岬は心臓か肺のあたりがきゅーっと締め付けられるような息苦しさを覚えていた。
 あの血まみれの場面を見たときのような感覚ではない。
 ----違う痛み、そして不快感。
 それなのに目をそらすことができなかった。
 くらくらする。

 ------負ける------
 そう、思った。
 そう、このままでは。
 なぜ、あれだけのことでそう思ったのか分からない。けれど、自然に湧き上がった思いだった。


■■■■■■■■■■■■■■■

 あの後、岬は圭美を見舞うこともせずに、その病室の前から逃げるようにして離れてきてしまった。どうしても、あの後に圭美に会う気にはなれなかった。
 どうしても気が晴れず、最寄の駅に隣接するビルの中の店をふらふらと何をするでもなく歩き回った。
 ---そんな時。
 もう帰ろうと角を曲がったところで、岬は蒼嗣とばったり出くわしてしまった。
 ものすごい偶然。ラッキーなのかアンラッキーなのかよく分からない。

 「・・・・・・どうしたの?・・・・・・って、あ。どうしたのっていうのも変か!あははっ。---あ、バイト?」
 思わず弾丸のように不自然にしゃべりまくってしまう岬。
 そんな岬の様子に、蒼嗣は怪訝そうな顔。
 ますますあせってうまく言葉が続かない。
 パニックになっていると蒼嗣がゆっくりと口を開いた。
 「---今、大島に会ってきた-----。」
 岬は心臓がどきんと跳ね上がるのを感じた。
 「----え、圭、美に---!?」
 そんなことは知っている岬だったが、覗き見なんかしてしまったことを悟られないように、岬は大げさに驚いて見せた。
 ちょっと不自然すぎたかなと言ってしまってから心配になったが、そんなことには蒼嗣は気づいていないようで、話を続けた。
 「なんか、すごく気弱になってるみたいだ・・・・・・・・・・・・」
 圭美を気遣うようなその口ぶりに、岬はさっきの不快感がよみがえってくるような気がした。
 「----会って、くれた、んだから、・・・・・・少しはマシになったんじゃ、ない、かなぁ・・・・・・?だって・・・・・・圭美・・・・・・。あたしに・・・・・・は・・・・・・会ってくれない・・・・・・・・・・・・。」
 そんな状態で声を出すから、途切れ途切れになってしまった。
 蒼嗣はそんな岬の様子をまた具合が悪いのかと捉えたらしい。
 「----気分、---また悪いのか?」
 そういって少しかがんで岬の顔を覗き込んだ。
 この状態になってしまったのは事件のせいではなかったが、蒼嗣の優しい言葉が嬉しくて岬は否定しなかった。
 「うん・・・・・・ちょっと・・・・・・。」
 そう言って岬は胸の辺りに手を置いて深呼吸した。
 「平気か?」
 苦しそうな岬を気遣ったのか、そう言った時に蒼嗣の左手が岬の背中に軽く触れる。
 岬には、蒼嗣に触れられた場所が一瞬にしてかっと熱くなるように感じられた。
 さっき、圭美の手に触れた手。
 ――悔しいのか嬉しいのか分からない。

 次の瞬間、息苦しさを振り切るように岬は自分の思いを言葉に出していた。

 「蒼嗣――あたし、あんたが――」
 うつむいていた顔を上げて蒼嗣をまっすぐ見る。
 もう言わずにはいられなかった。

 「あたし・・・・・・、--蒼嗣のことが――好き――なの・・・・・・・・・・・・!!」

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