* 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/ * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/
* 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/ * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/
種(1)
「えっ!?蒼・・・・・・っじゃなかった、克、也って十八歳だったの!?」
------お互いを名前で呼び合おうと決めたのは岬だ。けれどやはり急には無理で、まだまだぎこちない。
「・・・・・・うん、まぁ・・・・・・」
蒼嗣はばつが悪そうにうなずいた。
「ふーん・・・・・・」
本当は理由について詳しく聞きたかったのだが、さすがにまだそこまで立ち入ったことは聞く勇気がない。岬は素早く話題を変えた。
「か、つやの、元いた学校ってどこなの?」
「・・・・・・春日高校・・・・・・」
蒼嗣は表情を変えずに言った。
「えぇっ!?あの超有名進学校の!?」
------春日高校とはこの地域では有名な県立の学校で、県で上位1、2を争うエリート校である。そんなところからよくこの二流私立学校の桜ヶ丘になんて転校してきたものだと岬は心底驚いた。
「なるほどねー。それで、この前の中間の点数、そう考えるとうなずけるなぁ・・・・・・」
蒼嗣は学年トップだったのだ。
「------今回はたまたま運よく得意な問題が出ただけだよ。」
そう言うと蒼嗣は黙ってしまった。蒼嗣はその話題にはあまり触れたくないようだった。
「もー、私、克也のこともっと知りたいのに!」
不服そうな岬に蒼嗣は微笑を返しただけだった。
その微笑みに、その先が何も言えなくなってしまった。
『意外とこの人ってば策士かもしれない・・・・・・』と思う岬だった。
****** ******
いったい人の噂というのはどこから回るものなのか、岬と蒼嗣が付き合い始めたということは瞬く間に学年中に広がった。いい意味でも悪い意味でも岬は注目の的となってしまった。
「何だかいつも誰かに見られてるような気がするよぉ??」
そう言って机に臥して大きく息を吐く岬に、晶子は苦笑いで答える。
「幸せな悩み、幸せな悩み♪ねー蒼嗣くん?」
隣の蒼嗣に目配せする晶子に蒼嗣も何とも答えられないらしく、あいまいに苦笑している。
「何か蒼嗣くん、ここんとこ少し雰囲気変わったよね。なんというか・・・・・・表情豊かになってきたというか・・・・・・」
晶子の言葉に、岬もなるほどと思う。何かにふっきれたのか、他の人に比べると控えめではあっても声を上げて笑うようにもなったし、以前よりもその表情でどういう気分なのかがが分かる度合いが大きくなってきたのだ。
しばらく岬と蒼嗣を見てニヤニヤしていた晶子だが、急に真面目な顔になると、少し小声になった。
「そういえば・・・・・・圭美に会ってきたんでしょ?------2人のこと、言ったの?」
岬は無言でかぶりを振った。
晶子は少したしなめるような顔になった。
「ダメじゃん!ちゃんと言わなきゃ・・・・・・!」
「------何か・・・・・・、顔を見たら何も言えなかったの・・・・・・。体中包帯だらけで・・・・・・、明るくは振舞ってたけど、それが逆にすごく痛々しくて・・・・・・。」
「だけど岬、黙ってるのは酷だよ。」
「分かってる・・・・・・分かってるけど・・・・・・。」
「もし圭美が学校に復帰してきたら嫌でもそれを知ることになるんだよ、こんなに広まってるんだから。・・・・・・その前に岬自身の口から伝えた方がいいよ。その方がきっとショックも少ないよ。」
珍しく強い口調の晶子に、岬も返す言葉を失っていると、蒼嗣が口を開いた。
「・・・・・・俺が、言おうか。」
その声に岬も顔を上げた。
「今日はバイトがあって無理だけど、明日なら・・・・・・」
岬ははっとした。
「ううん。ごめん。・・・・・・そうだよね、あたしが言うよ。・・・・・・言わなきゃ、いけないことだよね・・・・・・。」
岬は自分に言い聞かせるように言った。
そしてこの後。
岬は、自分でもっと早くに言っておかなかったことを後悔することになる・・・・・・。
****** ******
黒のジーパン、灰色のハーフコートからのぞく黒いシャツの襟。
まだ本格的な寒さではないのに不自然な格好の男はそのドアの前に立った。
そして当然のように室内に入る。
「・・・・・・誰・・・・・・?」
ベッドからの怪訝そうな声。
そのベッドの上の主はその男の姿を捉えると、何かあったときに押すナースステーションへ直通のブザーに手をかけた。今にもブザーが押される・・・・・・というその手を男は押さえた。
「お静かに。何も危害を加えようという気はありません。大島、圭美さんですね?」
「・・・・・・気安、く呼ばないでよ・・・・・・・・・・・・!あんた誰なの!?」
あまりの驚きにかすれた声しか出せないベッドの主------圭美だが、気丈にも相手をにらみつけている。
「あなたに、知らせたいことが、あるんですよ・・・・・・。」
男はニイッと残忍な笑みを浮かべた。
そして。
男は、おそらく今、圭美が一番堪えるであろう事実をその前に突きつけた。
それが刃になると、計算ずくで。
全てを聞き終わった圭美は、明らかに動揺した表情を浮かべていた。
「そんなこと・・・・・・。2人がつきあってるなんて・・・・・・だって岬は、あたしには何も・・・・・・」
呆然とつぶやく圭美。
「真実はひとつですよ。気になるなら直接本人にお聞きになったらどうですか・・・・・・?」
「・・・・・・そんなこと・・・・・・、あんたに言われなくたって・・・・・・聞くよ。」
「そうですね。親友同士ですしね・・・・・・。でもひどいですよね。あなたがこんなに苦しい思いをしているのに、その間に2人はちゃっかり・・・・・・」
そこで男は圭美の鋭いまなざしに肩をすくめてみせた。
「分かりました。これ以上言うのはよします。・・・・・・でも・・・・・・もしこの先、つらいことがあったら、いつでも連絡ください。------私は、巽 志朗(たつみ しろう)。」
そういって名刺らしきものを圭美の手に握らせる。
「それでは」
そう言うと素早く身を翻し、あっという間に病室を出て行った。
圭美は、手に握った紙片をぐしゃ、と握りつぶし床と思しき方へ放り投げた。
****** ******
「今日は長はお屋敷にはおられないのですか?岩永様」
そういって男は恭しく頭をたれる。
その場がそんな礼儀などにおよそ似つかわしくない某ビルの喫茶店内であっても------だ。
「志朗、そのようなこと、お前が知るようなことではない。」
岩永基樹は冷たく言い放った。
「申し訳ございません。・・・・・・分かっております。長は崇高なお方、幹部でもない私にはお見上げ出来るほどのお方ではないと・・・・・・」
「分かっているではないか。」
なおも冷たい姿勢を崩さない基樹。
「ですが・・・・・・われら竜に連なる血筋に生まれたものにとって長にお会いすることは誰もが夢見ることです。ぜひ長のために手柄を立て、長にお会いできるようになりたい・・・・・・。その思いが強く出すぎたことを申しました。お許しください。」
男------巽志朗は遠い目をして言った。
この、まだ見ぬ長に傾倒しすぎる男は、ちょっと風変わりな能力を持ってはいるがあまり頭はキレる方ではない。今まであまり手柄はたっていないが、長のためという名目でなら何でもする男なので便利屋として、基樹は世話を焼いてやっているのだった。
「------。それで、わざわざ私を呼んでまで報告したいこととは何だ?」
少々苛立ちながら基樹は聞いた。
「先日、一青様と竜季様が憎き奈津河の犬どもに殺られたこと、真に遺憾なことです・・・・・・。」
基樹の肩がぴくりと動く。
「------それが何か?」
「・・・・・・竜季様が襲われたとき、奇跡的にほとんど無傷だった者がいるのです。あの攻撃の中ではいくら逃げても、一般人ごときがそうそう被害をかわせるものではありません。」
「------何が言いたい?」
基樹は持っていた煙草に火をつけた。
志朗は嬉々として話を続ける。
「------これは、・・・・・・二つの一族のどちらかに属する者であるとしか考えられません!!!------ほぼ無傷だったのは、高校生の二人。名前は、蒼嗣克也と栃野岬。この二人のどちらか、あるいは両方が一族である可能性が大きいのです!」
基樹は厳しい顔つきで二人のデータを見つめた。たいしたことは書いていないデータだったが。
「そして、ここに一人の鍵となる人物がいます。------重症を負いながらも生き延びた大島圭美。」
「・・・・・・どこがどう、鍵なのだ?」
基樹が話に興味を持ってくれたことが嬉しいらしく、志朗の顔つきがぱあっと明るくなる。
「はいっ!・・・・・・それがですね・・・・・・。この蒼嗣と栃野は最近付き合いだしたんですよ。いわゆる恋人同士になったってやつですね!・・・・・・で、大島はどうもこの蒼嗣が好きだった・・・・・・いえ、今も好きらしいんですよ!」
「・・・・・・。・・・・・・色恋沙汰は良く分からん。」
憮然とする基樹に、志朗も声のトーンを落とした。
「そこでですね、この大島の思いを利用して、二人を危険な状況に追い込むんですよ。・・・・・・そうすれば、どちらかの一族の者であれば力を発揮するはずです。能力のオーラを見ればどちらの一族のものかは分かります。・・・・・・われら竜の一族のものであれば仲間に加え、奈津河の一族であれば殺す・・・・・・それのみです。」
そこまで言い終わると、志朗は自慢げに微笑んだ。『どうだ』といわんばかりである。
そんな時------唐突に、志朗の携帯が鳴った。
なぜか3分間クッ○ングの音楽である。
「あっ、すみません、では失礼します!必ず数日中にまた良い報告をお届けいたしますっ!」
「あっ、待て志朗!!」
基樹の制止も聞かず、志朗は飲んだコーヒーの代金もおかずにそそくさと出て行ってしまった。
「------あんの馬鹿が・・・・・・!」
それは何に対して向けられた言葉だったのか・・・・・・。基樹は忌々しそうに煙草をぎゅっと灰皿に押し付けた。
「まぁ、あいつごときではたいしたこともできないだろうけど、な・・・・・・」
見やった先では、街灯が街を照らし始めていた。