* 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/ * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/
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種(2)
日が傾きかけていた。
数ヶ月前と比べると日が暮れるのも随分早くなっていた。
夕焼けに染まりつつある病室で、岬と圭美はたわいもない話で盛り上がっていた。学校のこと、 テレビのこと・・・・・・。
圭美の体にはまだ全身に火傷の痕が痛々しく、退院まではもう少しかかりそうだったが、最近はようやくベッドの上に起き上がれるようになっていた。
「ねぇ、・・・・・・岬ぃ」
ふと圭美が切り出した。
やけに改まった圭美の話し方に、岬はどきりとする。
「な、何?どしたの?」
表情が硬くなった岬の様子に圭美は思わずふきだした。
「やだなぁ、固まんないでよ。取って食おうってんじゃないんだから。」
「う、うん。ごめん」
そう言いつつ、なおも表情が硬く、体は固まったままの岬。
圭美はニコリと微笑んだ。
「・・・・・・じゃぁ、やっぱりホントなんだ。」
「圭美・・・・・・」
『何が』とは岬には聞けなかった。分かりすぎるぐらい分かっていたから。
数分の沈黙。
「岬も蒼嗣くんも水臭いよね・・・・・・。------何でこの前来たときは言ってくれなかったの?」
視線を窓の外に移して圭美はまるでつぶやくようにぽつんと言った。
もう暗くなりかけた室内。圭美の頬を夕日だけが照らす。
次の句が継げない岬を見て、圭美は微笑した。
「分かってるって。こんな状態のあたしに遠慮、してくれたんでしょ?」
「------ごめ、んっ・・・・・・」
岬は泣きそうになった。
あまりにも圭美が優しすぎて。
圭美の顔を見ることが出来なかった。
ベッドのそばでうつむいたままの岬の肩を、圭美がぽんぽんと叩く。
「なんて顔してんの。------いいよ。岬になら。------どうせいずれかは決まることだったし・・・・・・。それが思いのほか早かっただけだしね。ちょっぴりショックだけど。・・・・・・変なヤツに取られるよりは、岬でよかったと・・・・・・思うよ。」
「ごめんね、ごめん・・・・・・」
岬にはそれしか言えなかった。
「謝んないでよ。ここは謝る場面じゃないってば。謝ったら、余計にあたしがみじめじゃん。------それとも、あたしのこと、これ以上落ち込ませたいの?」
思わず岬が顔を上げるとそこには、これ以上もないというくらい優しくて強い、圭美の笑顔があった。
****** ******
すっかり暗くなった外の闇を眺めながら圭美は開きっぱなしになっていた雑誌を閉じ、枕元に置いた。
雑誌の内容なんて頭に入っていなかった。
どうしてもあの二人のことが頭から抜けなかった。
分かっている。
岬の、自分を気遣う気持ちも。
感謝しなければいけないのだ。
かわいい岬。あの子の性格なら言えなかったのもうなずける。
それなのに。
心のどこかで別の声がする。
ずるい。
ズルイヨ。
彼に会った時期も同じ。自分だって彼の心をつかみたいと努力をしてきた。
その努力ならあの子にも負けない。
ナノニ ナゼ?
あの爆発の時、あの一瞬。訳が分からなかったけど、なぜか瞳の片隅で、蒼嗣の姿をちゃんと確認していた。気が狂いそうな痛みの中で。
------あの時、彼がかばったのは。
あれがなぜ自分ではありえなかったのか。
なぜ、自分はこんなにつらい思いをしなければいけないのか。
彼がかばった親友は、腕こそ負傷しているものの、あんな爆発に巻き込まれたとは思えないほど軽症だ。
そしてさらに。
彼の心まで手に入れた------
なんて幸運な子。
----------ドクン!
その時、体の中で何かが生まれる気がした。
どろどろした、何か。
「み、さきぃ・・・・・・」
その何かから逃げるように、親友の名を呼ぶ。
「蒼・・・・・・し・・・・・・っ」
今まで見て、聞いてきた彼の顔が、言葉が、浮かんでは消える。
****** ******
「種。・・・・・・ふふっ。・・・・・・もう種は蒔いてあるんだよ。」
志朗はガラス玉の中の光景を見て目を細めた。
その瞳に宿るのは、残忍な愉悦の色。
「もっともっと開放してあげるといい・・・・・・、キミの心の中の闇をね。------かわいいヤツなんだよ。僕の持つ中でもとびっきりの闇霊(あんれい)。闇霊は人間の心の負の面を増幅させるんだよ・・・・・・」
一人、悦に入っていた志朗の背後で不意に声がした。
「-----心に闇霊を住まわせる。------またお前の得意技か。」
「だれだっ!」
曲がりなりにもこの場所は結界がはってあった。それなのにこう易々と背後に立たれるとは。志朗は闇の中、目を凝らした。
「ばーか。落ち着けって。」
暗闇から、殺気立った雰囲気を壊すような声が聞こえた。
現れた男がゆっくりと歩を進める。
「あ、貴方は・・・・・・!!」
向かってくる人物を見て志朗は驚きの声を上げた。
「すぐに気付いてほしいなぁ。仮にも竜の一族に連なるものなら・・・・・・」
「も、申し訳も・・・・・・ございませ・・・・・・。」
あたふたとその場に膝をついて謝ろうとする志朗の言葉を、男はうるさそうに遮った。
「あ?、いい、いい!別にそんなことを今言いに来たわけじゃないから。」
切れ長の目が、街灯に当たってちらりと光る。
「今回は、俺がお前の監視・・・・・・じゃなかった、協力役になるから。」
「え・・・・・・、私ごときに、利由様が付いてくださるのですか・・・・・・?」
「まぁ・・・・・・今回の件にはね。------岩永氏に頼まれては嫌とは言えないしね・・・・・・。」
その男------利由尚吾-----は大きく息を吐くと、肩をすくめてみせた。