◆ファンタジー要素の少ない1章半ばまでをショートカットするためのダイジェスト版もございます。
 * 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/  * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/

衝突(1)

---------数時間後。
教室についた岬を待っていたのは女の子たちの黄色い声だった。
黄色い、というより少々色仕掛けも入っている者もいるから「ピンク色」、と言った方がいいのか・・・・・・。男子はみんな呆れ顔をしつつ、ぶつぶつ言っている。

その原因はもちろん例の転校生。
「ねぇねぇ蒼嗣くん!好きな食べ物って何?」
「好きな音楽は?」
などなど、転校生にはお決まりの質問を蒼嗣の机を囲む女の子たちが次々にあびせている。何重にも女子が群がっているから隣の席も既に占領されている。岬はしばらく座れそうにない。かといって、あの集団に入るような気力は岬にはない。
途方にくれていると後ろからぽんと肩をたたかれた。
振り返ると圭美だった。
「あれねー、数分前からあの調子なんだよー。全くまいるよねー」
高い位置でひとつにまとめた髪の先が顔にかかるのを払いのけながらため息をついた。
「圭美は?いかないの?」
分かっていてわざと岬は聞いてみる。
「あったりまえじゃん。あんなバカたちと一緒にいたらいつまでも軽い女集団のうちの一人としか見てもらえないじゃない。」
さすが、歯に衣着せない圭美らしい言い草だ。
「圭美ってばひどー。・・・・・・当たってるけど。」
岬は苦笑する。

そうはいうものの、岬は少し気になってしまって圭美と違うことを話しながらも耳だけはかなりそちらを向いていた。
蒼嗣は、意外なことに例の質問攻めにもご丁寧に答えていた。
相変わらず表情は硬く、にこりともしなかったが、聞かれたことにはぼそぼそと答えていて、それがまた「クールで素敵」とか言われて女子には好評のようだった。


しばらくしてチャイムが鳴ると、蒼嗣のまわりを取り囲んでいた女子たちは名残惜しそうにそれぞれの席に着き、岬もやっと自分の席に座ることができた。いつのまにかこの椅子に座っていた者もいるとみえて少々椅子が生温かいのも妙に癪に障る。
岬は少し苛立っていた。
それは椅子のせいだけではないかもしれなかった。岬はまだ気付くはずもなかったが。

ホームルームが始まっても、岬はなんとなく不機嫌さが抜けない。
かったるい朝の連絡。Ms.石倉のいつもの話。
ふと視線を泳がせる。
岬は横目で、怖いくらいに整っている蒼嗣の横顔を見た。

相変わらず彼の横顔からは何を考えているのかを読むことはできない。
不思議な存在だ。
いままで見てきた男子たちとは違う、独特の雰囲気を持っているのだ。
何か自分たちとは同じ次元で見てはいけないような、そんな気さえする。

と、その時、岬の視線に気付いた蒼嗣がこちらを見下ろした。
岬はいきなりのことに慌てて視線を戻すのを忘れてしまった。
明らかに不機嫌そうな蒼嗣の顔。もともと表情のない蒼嗣だが、今は明らかにそれが分かる。分かってしまった。
蒼嗣は机に置いてあったプリントを裏にするとペンを走らせた。
『何か?』
そう、書いてあった。字はそれほどきれいではない。しかし岬はそれどころではなかった。
冷ややかに、そして静かに蒼嗣は岬を見つめる。
岬もペンケースから慌ててシャーペンを取り出す。
『特に意味は・・・・・・』
書く指が震えた。顔が赤くなっているのが自分でも分かる。いや、あせっているから青くなっているのか・・・・・・。
それを見た蒼嗣はため息をつき、
「人の顔、用も無いのにじろじろ見るな。不愉快だ。」
そう、小さい声でぼそっとつぶやいた。
岬はその言葉で、頭にカーッと血が上るのを感じた。
"じゃぁ何?さっきはたくさんの女の子に囲まれて平気でいたっていうのに、何でその人たちは平気なワケ?私だけダメってどういうことよ!?私だけ何でこんなこといわれなきゃならないワケ!?"
岬の心にむかむかとしたものが再燃する。
その時の感情が何か、岬にはまだ分からなかった。

----------その感情の名を、人は"嫉妬"、と呼ぶ。

その感情に任せて、岬は次の言葉をつむいでいた。

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