◆ファンタジー要素の少ない1章半ばまでをショートカットするためのダイジェスト版もございます。
 * 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/  * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/

衝突(2)

「別に見たっていいでしょう!?減るモンじゃなし」
一応ホームルーム中ということを考慮して声は押さえ気味にしたつもりだったが、周りの数人が異変に気付いてこちらを見ている。

「・・・・・・礼を知らないヤツだな。そういう問題か?」
相変わらず蒼嗣は冷静だが、その顔にはありありと不満が現れている。
それが逆に岬を情けない気持ちにもし、余計に逆上させる。
「何よ。ちょっとモテたからっていい気になってんじゃないの?」

蒼嗣もこれにはさすがに頭にきたらしい。
「何だって・・・・・・!?」
声を荒げる。
岬もそれにつられて何かを言い返そうとしたとき-----

「栃野さん!蒼嗣くん!ホームルーム中ですよ!」
Ms.石倉の喝ががとんだ。

時は移って昼休み。

「どーしたっていうのよ、岬。」
圭美は学食のうどんをすすりながら岬を見つめた。
「だってぇ・・・・・・」
岬はサラダをフォークでもてあそびながら上目遣いで圭美を見上げる。

圭美はそんな岬を見て、少し困ったような顔をした。
「そりゃぁさ。恋愛慣れしてない岬にとっちゃ、蒼嗣くんの態度はショックだったかもしれないけどさぁ・・・・・・」
「違うよっ!・・・・・・そんなんじゃないって言ってるでしょ?!?」
岬は大げさに否定した。
そう言っていないと、なんだか自分がすごく落ち込むような気がして。
もやもやを振り切るようにまくし立てた。
「だいたいなんで、ちょっと見てたぐらいであんなに不機嫌になるわけ?別に危害を加えようというわけじゃなし!」

圭美は少し呆れ顔。
「・・・・・・そりゃぁ、じっと見られて気になんない人なんていないでしょうよ。あんただって誰かからじ??っと見られてたら気になるでしょ?それと一緒だよ。」
的を射たことをすぱんと言われてしまい、岬は言葉に詰まってしまう。数秒前の怒りの勢いもそこでがくっと急降下した感じだ。

圭美はそんな岬の顔をじーっと見つめる。
「私としては、蒼嗣の態度よりも岬がそんなことぐらいでそんなに怒ってるっていうほうが不思議だな?。」
そう言ってどんぶりのそばにある水を一口飲む。

岬は圭美の言葉で少しだけ冷静になることができたので、反省もかねて少し客観的に考えてみた。
なぜ自分はこんなに怒っているのか。
圭美の言うことは正しい。誰だって、何の理由もなしにじろじろ見られるのは気持ちの良いものではない。
けれど、そうは分かってはいてもふっきれない何かが岬の心にあった。
確かに自分の行為は相手に不快感を与えるようなものだったかもしれないけれど、強い口調で"不愉快だ"と言われるほどのことだったのだろうか?
あの明らかに人を突き放したような瞳が心に焼き付いて離れない。
極度の人嫌いなのだろうか?
転校初日の挨拶の態度といい、今日の岬への態度といい、なんとなくそう思った。
だとしたら、そういう人にとっては自分の行為は自分には想像もできないほどの不快を覚えることだったのかもしれない。

何はともあれ謝ろう。
明日、学校に行ったら。

そう、岬は心に決めた。

その夜、郊外にひっそりと建つ一軒の大きな和風の邸宅の門を、傷だらけの一人の男がたたいた。
周りにはぽつぽつと家もあるが、都会の喧騒とはかけ離れた静かな環境。
新しくはないが手入れは行き届いているその邸宅は、外壁の上部から所々に見え隠れする枝から、白く小さな花が夜の闇の中で淡いライトに照らされて独特な優雅さを醸し出している。
その門のすぐ横にインターホンという文明の利器があり、通常はこれを押して中の者を呼ぶのだが、その男はあまりにも焦っていて門をたたくという古典的手段に出てしまったようだ。
そのインターホン越しに確認したのであろうか、門が開いて中からスーツ姿の男が顔を出した。
駆け込んできた男は、この邸宅内の誰かに取り次ぐように、焦った様子でスーツ姿の男に事情を説明した。


しばらく後・・・・・・。
中の「誰か」に会うことを許された傷だらけの男は、
部屋の一番奥にいる男を
「長(おさ)・・・・・・」
と呼んだ。

『長』と呼ばれた男は、それまで見ていた本から目を離すと、ゆっくりと顔を上げた。
そばには初老の男が一人。守るように付き従っている。
傷だらけの男は、その場にがくりと膝をついた。
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
半分泣いているようでもあった。
初老の男は、落ち着いた声で半泣き状態の男に声をかけた。
「・・・・・・何があったんだ?」
半泣き状態の男は次の言葉を紡ぐ前にごくりとつばを飲んだ。
「一青(いっせい)が・・・・・・やられました・・・・・・、俺は・・・・・・逃げるのが精一杯・・・・・・で・・・・・・」
一青、と呼ばれる男とこの傷だらけの男が一緒にいるところを敵に襲われ、一青という男の方が殺されたのだ。

初老の男は、その言葉だけで全てを察したらしく、それについては何も触れずに瞳を閉じた。握り締めたこぶしが小刻みに震える。
「いまいましい、奈津河のやつらめ・・・・・・。先日のことを恨んでのことか・・・・・・。あんな一族、滅びてしまえばいいのに!・・・・・・あの刀さえやつらが握っていなければ、とうに我らが滅ぼしていたものを・・・・・・」
言葉には、同胞を失った悲しみと敵に対する憎しみが満ちていた。

初老の男の言葉が終わるか終わらないかといううちに、長は傷だらけの男に向かって口を開いた。初老の男の感情のこもった言葉とは裏腹に、やけに落ち着いた声だった。
「一青のこと・・・・・・気の毒だった。・・・・・・このところ、奈津河の方は何かをあせっているのか行動が少々大胆になってきているようだな。」
そう言って、目線をいったん初老の男の方に移した。

「とにかく、傷を手当てした方がいい。今後のことはそれからだ。・・・・・・基樹。」
そう長に呼ばれた初老の男は、
「では、あちらで傷の手当をさせよう。」
と傷だらけの男を部屋の外へといざない、人を呼んだ。
ほどなくしてお手伝いの女がやってきて、傷だらけの男を連れて行くと、また部屋には静けさが戻る。


基樹は長をまっすぐに見つめた。
「長・・・・・・どうか決断をしてください。本格的に動き出す決断を。長さえそうお決めになられたのでしたら、この岩永基樹をはじめ、全国に散らばる竜につながる者たちが立ち上がるでしょう。・・・・・・奈津河一族を滅ぼすために!」
そう熱く語る。

長は熱く語る基樹を一瞥するとくるりときびすを返した。
「今はまだその時ではない。」
振り返りもせずそう言い放ち、部屋の外へと消えていった。

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