◆ファンタジー要素の少ない1章半ばまでをショートカットするためのダイジェスト版もございます。
 * 1 章『出会い(1)』 - 『衝突(3)』ダイジェスト/  * 1 章『接近(1)』 - 『陰謀と衝撃(2)』ダイジェスト/

衝突(3)

------朝。
教室に着くなり、岬はあれっ?と思った。
当然またあるだろうと思っていた、自分の席周辺の黒山の人だかりがないのだ。
「彼」がいれば当然あるだろうというシロモノだ。

はっ、と岬が自分の席あたりを見ると、確かに「彼」がいない。
"どうしたんだろ?"
不思議に思っていると、ばしっ、と後ろから背中に一発平手打ちをくらわされた。
「いたっ!」
振り向くと、晶子だ。蒼嗣の情報をいち早くつかんだ面食いの晶子だ。
「なーに呆けてんのー?蒼嗣くんなら職員室よ?」
ニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべている。
「えっ、べっ、べつにあたしはっっ」
岬は慌てて否定した。
最初の方は平手打ちの痛みと晶子の意味ありげな笑みのせいで、声が裏返ってしまったが。
そんな岬の動揺ぶりに気付いたのか、晶子はきゃははと声を立てて笑った。
「みさきってばカワイイ!!」
憮然とする岬におかまいなしで、さらに晶子は続けた。
「怒んない怒んない!岬ってば根が素直だから隠してても分かっちゃうよぉ。いいのいいの!あたしには分かっちゃったから!今確信した!!」
「何をよ!!」
大体分かっているのだが、あえて聞いてみる。
晶子はニコニコしながら小声でささやいた。
「岬が蒼嗣くんにラブ♪ってことが!」
「・・・・・・」
岬は脱力した。
圭美といい、晶子といい、どうしてそう決めつけるのか・・・・・・。というより、なんでこうも遊ばれやすいのか・・・・・・。岬はため息をついた。自分がそうじゃないと言えば言うほど多分晶子は自分の都合のいい方に話を進めていくだろう。

「そんな岬にはとっておきの情報を教えちゃう!」
妙にうきうきとした様子で急に晶子がそう切り出す。
反論もバカらしくなって岬は黙ってそれを聞いた。
晶子は岬の耳に自分の顔を近づけると、手を添えて内緒話をするポーズでそっと言った。
「蒼嗣くんね。ここよりひとつ先の駅の近くのアパートで一人暮らししてるんだって」
「・・・・・・へぇ。・・・・・・」
岬は意外だと驚いたのだが、とっさに口を突いて出たのはそんな間の抜けた台詞だった。
そんな岬の言葉に、晶子は頬をぷくぅと膨らませた。
「ちょっとみさき?!もっと驚きなさいよね?。」
「あ、・・・・・・ごめん。だって珍しいと思ったから・・・・・・。・・・・・・で?」
「で?って・・・・・・もう。面白くないんだからぁ。それだけだよ。・・・・・・好きな人の情報をひとつでも多く知りたいと思うのは恋する女の子の常識ってモンじゃないのかなぁ?」
「・・・・・・うーん・・・・・・」
岬はあいまいな返事を返した。

「ま、いいか。岬らしいといえば岬らしいけどね・・・・・・。まぁ、そのうち分かるでしょ?。うんうん。」
晶子は勝手に自分の中で話を自己完結させているようだ。
そして付け加える。
「あ。安心して?あたしの中で蒼嗣くんは単なるアイドルだから。岬と奪い合おうっちゅー気なんか全然ないからっ♪だってあたしには重クンがいるんだしー。あ、ホラ。重クンは蒼嗣くんとは別のかっこよさがあるでしょ??」
「はいはい。ごちそうさま。」
岬が横柄に答えると、晶子は不満げである。
『重クン』とは晶子の彼氏。岬達より1年先輩でバスケ部所属の、さすが面食いの晶子の彼と納得できるカッコイイ男である。甘いマスクが売りで男女問わず同学年にも後輩にも優しいスポーツマンだ。
晶子の彼氏自慢にひっかかるとしばらくおノロケを聞かされるハメになる。それは勘弁して欲しい岬であった。
「ナニナニ?どうしたの?」
そんなところに助け舟が現れた。圭美である。岬はラッキー♪と目を輝かせた。
「ねぇ圭美、また晶子が高島先輩とのあれこれを聞いてもらいたいみたいよー♪」
岬がおどけていうと、圭美はとたんにイヤそうな顔になる。圭美も何度も被害にあっているのだ。
「晶子ってばー、またなのぉ」
岬と圭美のやりとりに、晶子がぷぅっと再び頬をふくらませた。
「もぉー。岬も圭美もぉ少しは聞いてくれたっていいじゃんよぉ」
そう晶子がうらめしそうにつぶやいたとき、
「あ、それよりもさ」
圭美が思い出したように言った。
「あたし、体育の鎌田Tに伝言頼まれてたんだった!岬、あんた体育の連絡係だったよね?・・・・・・鎌田Tが明日の授業のことで手伝って欲しいことがあるから至急職員室に来てくれだって」
「うそっ!それを一番に言ってよっ。あのセンセ、怒ると怖いんだから!」
岬は慌てた。
「いってらっしゃ???い、がんばってねぇ?」
圭美と晶子にひらひらと笑顔で手を振られつつ、教室を飛び出した。
職員室のあるのは2階。
岬は夢中で階段を駆け下りた。
階段の先の廊下を左に曲がろうとしたときだった。

岬は何か大きなものにぶつかって、しりもちをついた。

「あたぁー!何よー」
今日はツイてない日かもしれない。
そう思った岬は【ぶつかったもの】を確認してそれを再認識することとなった。
「またオマエか・・・・・・」
見上げた先には眉間にしわを寄せている蒼嗣の姿があった。

------謝らなきゃ------
------そうは思ったのだが・・・・・・

「また、とは何よ、また、とは!!」

岬の口をついて出てきたのはこんな憎まれ口だった。
「人にぶつかっといて謝りのひとこともナシか・・・・・・」
蒼嗣が余計に不機嫌になったのは言うまでもない。

しばらくは謝れそうもない岬だった・・・・・・

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